2011年7月8日金曜日

スポーツを考える:佐伯年詩雄・筑波大名誉教授(スポーツ社会学)

(毎日 7月2日)

スポーツ基本法が成立した。
私は、超党派のスポーツ議員連盟のアドバイザリーボードを務め、
衆院の文部科学委員会でも意見陳述をしてきた。

基本法ができたことは喜ぶべきだが、
この法律は多くの「宿題」を抱えている。

衆院の委員会では、スポーツは自発的な運動の楽しみを基調とする
自己目的的な文化であり、その文化的特性が十分に尊重されるとき、
さまざまな公益性が期待されるものであることを述べてきた。

法律の中では、前文の2段落目に
「スポーツは、心身の健全な発達、健康及び体力の保持増進……
のために行われる」と定義。

これは、50年前のスポーツ振興法の体育的定義とまったく変わらない
「スポーツ手段論」であり、1行目の「スポーツは、
世界共通の人類の文化である」という言葉に矛盾。

私が求めているのは、もう一度、「スポーツとは何か」を
考えてほしいということだ。
国会議員やスポーツ関係者だけでなく、国民すべてに対して。

振興法は、スポーツ関係者だけに関係していたが、
基本法になると、すべての人にかかわる問題。
スポーツ大嫌いという人の意見も、取り入れなければならない。
そうでないと、これまでと同じように「たかがスポーツ」になってしまう。

とりあえず、スポーツ基本法を読んでもらいたい。
サッカー愛好者ならサッカー基本法、野球関係者ならば野球基本法と
置き換えてみてはどうか。
その中で、この条文はそぐわないとか、もっと議論してみるべきでは、
という問題点や評価すべき点が見えてくるはず。

このたびのスポーツ基本法の成立に至っては、
国民的な関心を持たれないまま、「こっそりと」であった。
これには、メディアの責任も大きい。

成立した日のテレビのスポーツニュースでは、
大リーグのことは伝えても、基本法についてはまったく触れなかった。
新聞も、「スポーツの権利」が入ったことに万々歳していて、
「自由な」身体活動の権利としての「スポーツ権」ということを
追求しなかった。

世界標準のスポーツのとらえ方、考え方から見ると、
スポーツ思想に関しては、日本は後進国。

その問題点を見つけられなかったがために、全く論議にならなかった。
法律は、できてしまえば終わりではない。
次は、スポーツ庁の設置へと向かうだろうから、
そこで改正することもできる。

日本には、週に1回以上スポーツをする人が、
4000万~5000万人いると言われている。
基本法は、そのすべての人たちにかかわってくる。

これから法律をどのように動かすか、
よりいいものにするためにどうするかが、
5、6年かけた私たちの宿題と思う。
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◇さえき・としお

1942年生まれ。東京教育大大学院修了。
企業とスポーツのかかわり方などを研究。
著書に「現代企業スポーツ論」など。

http://mainichi.jp/enta/sports/general/general/archive/news/2011/07/02/20110702dde007070038000c.html

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