2008年11月4日火曜日

考える力(7)鶴亀算 答えより解き方

(毎日 10月29日)

戦前の教科書を見直し、考える力を育む試みがある。

「消しゴムはいらないからね。鉛筆だけ出して」
東京都千代田区立お茶の水小学校の黒木公一教諭(52)は、
6年2組の児童に、間違っていいことを強調してから、
黒板に旧かなづかいの算数の文章題を張り出した。

「鶴ト龜ガ合ハセテ二十匹ヰル。足ノ數ハ合計五十二本デアル。
鶴ト龜トハソレゾレ何匹ヰルカ」

1935年から10年近く使われた小学校算術の国定教科書で、
6年下巻の応用問題の一つ。俗に「鶴亀算」と呼ばれる。
表紙の色から、「緑表紙」と名の付いたこの教科書は、
その斬新さから当時の教育界で大きな反響を呼んだ。

その執筆者が、後に教科書作りを担った出版社「啓林館」(本社・大阪)は、
伝説の教科書を見直すことが、「考える力」を育てるのに有効だと
昨秋、そっくり復刻。
その話を知った黒木教諭が、1組担任の栗原由紀子教諭とともに、
子供たちに「考える算数」を経験させたいと特別授業に臨んだ。

「塾でやったことあるかもしれないけど」。
黒木教諭の言葉に「ある」、「ある」と何人かが反応する。
「でも、自分が問題を解ければいいというわけじゃないよ。
全員がなるほどと納得する授業をしたいんだ」。
問題文を何度か読ませる間も、黒木教諭は
「読むことイコール考えることだからな」、
「算数にも国語の力が必要だぞ」と繰り返した。

その後、1人でこの問題を考えて答えを文章にする時間が15分。
「書いたことは消さないで。頭の中で考えたことの証拠だから」と
消しゴム不要の理由が明かされた。

まず丸を20書く子、表を作る子、問題をじっと見つめる子……
子供たちの考える時間は様々。
その後は、何人かの児童が、解き方を発表した。

「みんなの頭の中が見えるようにするのが目的だから、
ほかの子が間違っていても、かつての自分だと思うこと」、
「答えが出るのと、よくわかっていることは違う。
間違っていても、ずっと考える子が伸びるんだ」と黒木教諭。

アッという間の2コマ分の授業後、子供たちは、
「今日ほど『なるほど』と言葉を発したことはなかった」、
「考えるのが楽しかった」、
「答えは一つでも考え方はたくさんあるとわかった」と感想を記した。

茨城大学付属小学校の佐藤雅記教諭(41)は、
別の応用問題の一つを使って、7月に研究授業をやった。

「今の子は、書くことや考えることが弱いと言われるが、
教師も、計算など見える力にシフトしがち。
授業の中で考えさせることを大切にしていかなければ」、
「『緑表紙』には、色々な学年に使える良問が含まれている。
これからも単元と単元の合間の発展的な問題として取り組んでみたい」

新しい学習指導要領は、考える力の育成のために、算数的活動を重視。
緑表紙の応用問題は、まさにこの活動につながる。
伝説の教科書が、時代を超えて教師たちを刺激している。

◆鶴亀算

連立方程式を考える前段階の問題として知られている。
現在の小学生にも、「変わり方の決まりを見つける」といった指導はされているが、
啓林館の教科書を例に取ると、少なくとも1970年代以降、
「鶴亀算」そのものの記述はない。
現行では、中学2年で連立方程式を学ぶ際、コラムの中で触れられている。

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20081029-OYT8T00184.htm

0 件のコメント: