2008年11月6日木曜日

考える力(9)司書教諭「問う力」指導

(読売 10月31日)

図書館で「読書科」の授業を続ける私立高校がある。

授業の場所は、図書館の中の教室。
図書館の使い方や論文の書き方を学びながら、研究テーマを決め、
3年かけて論文1本を仕上げる。
私立関西学院高等部では、そのための週1回の「読書科」の授業が伝統。

3年生は、論文の提出期限まで残り3週間という時期を迎えていた。
冒頭、宅間紘一教諭(64)が、「たとえ一般論でも、他人の文章は、
全面的に自分の文章に書き直すこと。
結論はテーマに対する答えで、充実させること」などと、短く指示。

生徒はすぐ図書館に散り、本を調べ直して注釈を書いたり、
添付する資料や図表を探したりし始めた。
「3年になると、自分でどんどん調べていきます」。
論文は、400字の原稿用紙に直せば、20~50枚分ほどになる。

宅間教諭は同高で約30年間、司書教諭として読書科の授業を担当。
本を読む力と調べる力を一体として育て、自分で知識を身につける
方法を学ばせるのが狙い。

宅間教諭は、学力を「問う力、答える力、発表する力」と考える。
受験で重視されるのは、知識を基に解答を導く「答える力」。
しかし、「課題を自分で発見し、研究に値する適切なテーマを設定する
『問う力』は、学力の土台なのに、軽視されている

読書科の指導で最大のポイントは、研究テーマの設定。
「環境問題」などの漠然としたテーマで、論文は書けない。
社会の動きや時代と関連させつつ、具体的で独自性のある切り口が必要。
「自分は何を調べたいのか」を徹底的に考えさせ、テーマを引き出す指導がいる。

去年の3年生のテーマは、「土方歳三にとって、『武士』とはどのようなものか」、
「妖怪は時代によってどのように変わってきたか」、
「自由な校風にすることにはどのような意味があるのか」など。
確かに具体的でユニークだ。

ある年、「図書館で検索しても資料が見つからない」とこぼす生徒がいた。
生徒が選んだテーマは、「ポイ捨て」。
具体的に調べたいことを聞くと、「ごみ問題」と答える。
「ごみ」や「環境」で探すよう指導した。
生徒は、多くの本が見つかって喜んでいたが、
「この本は少し役立つけど、何か違う」と言い始め、やがて気づいた。

「先生、僕はごみを平気で捨てる日本人の心に、興味があったんです」
「『テーマを変えたい』、『資料が見つからない』と言ってきた時がチャンス」と宅間教諭。
「ここでの教師との問答は、生徒が自分の心と問答をすることと同じ。
だから答え過ぎないことが大事。
自力で乗り越えれば、問題を見つける力がつく

ここ数年は、ネットで情報が引き出しやすくなった分、
「いかに自分の言葉で語らせるか」に心を砕くという。
調べ学習も、的確なリードがあって初めて、生徒の生きた力になる。

◆司書教諭

学校図書館を利用した読書教育、図書館の管理などを行う。
昨年5月時点で、小中高校の約6割に当たる2万5000校に配置。
教員免許に加え、司書教諭課程の履修が必要。
学校図書館法で1953年に誕生したが普及が進まず、97年の法改正で、
小中高校とも12学級以上の学校は、5年以内の配置が義務。

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20081031-OYT8T00252.htm

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