2008年11月4日火曜日

スポーツ21世紀:新しい波/282 ビデオ判定/5止

(毎日 11月1日)

心臓の鼓動音のような重低音が、スタジアムに響く。
緊張感に包まれた観衆の高揚感をあおる演出の一つ。
このBGMに乗せて、トライかどうかを判定する4方向からの映像が
大型ビジョンに流され、歓声がわき上がる。
07年秋のラグビー・ワールドカップ(W杯)フランス大会で
何度も目にしたシーン。

ラグビーのプロリーグが発展した欧州や南半球では、
エンターテインメント性の向上に力を注ぐ。
ビデオ判定は、ショーアップ策の一環として位置付けられ、
リプレー映像はテレビ放送でも流れる。
放映権料のアップを期待する競技団体側、
演出効果で視聴者を引きつけたいテレビ側の思惑が一致。

ラグビーのプロレフェリーとして国際経験が豊富な平林泰三さん(33)は、
「世界では興行の面が強く、観客の満足が一番の目的に。
16台のカメラを設置し、視聴者が16個の映像を切り替えて
楽しむサービスを提供した放送局もあります」。
プレー判定の枠を超え、ビジネスに活用されている。

今季からトップリーグの一部の試合で導入する日本では、
正確性を求める声に応え、W杯誘致を視野に国際基準に合った
レフェリング体制を確立するのが目的で、ショーアップは想定外。
平林さんは、「アマチュアリズムの伝統がある日本は、土台が違う。
プロ競技なら積極的に活用すべきかもしれませんが、
どこで一線を引くかは難しい」。

スポーツの産業化とメディアの影響などを研究する
川口晋一・立命館大産業社会学部准教授は、
「例えばテニスでは、ビデオ判定を要求する選手の行動や表情が
スポーツ番組の当たり前の中身になり、
選手がどこで権利を使うかとか、そこに楽しみを見いだすのでは」と、
競技の新しい見方を広げたと指摘。

ビデオ判定導入の取り組みが進むにつれ、
スポーツから「あいまいさ」が消え、競技の楽しみ方を変えつつある。
試行錯誤の先に何があるのか?
今はまだ変革の序章に過ぎないのかもしれない。

http://mainichi.jp/enta/sports/21century/

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