(毎日 10月25日)
歴史の大きな流れを理解する過程が、思考力の育成につながる。
明治政府に人材を多く輩出した山口県。
防府市の華陽中学校2年で、歴史授業のテーマは、近代の条約改正。
佐藤淳教諭(35)は、1871年に欧米訪問に出発した岩倉具視使節団と、
陸奥宗光、小村寿太郎の3枚の写真を黒板に張った。
岩倉は、不平等条約の改正に失敗したが、
陸奥が1894年に治外法権の撤廃、
小村が1911年に輸出関税自主権の回復に成功。
「今日のテーマ。なぜ40年で日本が条約改正に成功したのかを考えてください」。
佐藤教諭が指示すると、生徒が一斉に、教科書や資料をめくり始めた。
40年分の近代史は、教科書で20ページ近い。
生徒は、課題の答えを探しながら読み込み、ノートに書きとめていく。
「いつものように班で考えて」。
生徒は机を動かして、4~5人の班で討論する。
「日露戦争に勝ったから」、「日本が国会や憲法を整えたから」。
佐藤教諭は、出てきた生徒の意見を、日本の外交力と、国内の政治事情の
二つに整理した上で、生徒に矢継ぎ早に質問を投げかける。
「岩倉の時は、国内がどうだった?」、「政治体制が整っていなかった」、
「どこに比べて?」、「欧米諸国」、
「不平等条約はどっちに不利?」、「日本」、
「欧米の立場だったら、どっちがええ?」、「改正しない方がいい」……。
「なぜ有利なのに、外国は条約改正したの?
日露戦争に勝ったからって、わざわざ改正するかな?」。
生徒が首をひねり始めた時に、終業のチャイムが鳴った。
新学習指導要領では、中学校の歴史分野について、
歴史の「大きな流れ」の理解を重視する姿勢が強まっている。
佐藤教諭は、県の中学校社会科教員の研究会で、
同僚と新しい歴史授業のあり方を研究する中、
歴史を古代、中世、近代の大枠に分け、
生徒が自主的に時代を研究するよう仕向け、
特徴をつかませる「時代調査」という授業を始めた。
授業のポイントは、生徒が自分で考えて討論すること、
教師が生徒の言葉を使いながら進めること。
例えば条約改正について、教科書だけでは背景の説明が不十分。
教科書や資料を手がかりに、生徒自身が歴史で出てくる知識の関連を考え、
欧米諸国の変化が日本に大きな影響を与える近代の特徴に気づく作業が、
歴史の「読み方」を理解する一助。
授業では、古代、中世、近代などそれぞれの時代の比較、
郷土史と時代の関連、現代社会との違いなどを織り交ぜることで、
歴史を現代につながる生きた知識として、育てていく。
各時代の授業の最後に、生徒が抱く時代観が、「深まった」と実感できれば成功。
「歴史を学ぶことで、今の時代がどう動いているかを理解し、
判断する力をつけてほしい」と佐藤教諭。
暗記に偏りがちな歴史教育も、思考力を鍛える教材にすることができる。
問われるのは、教師の創意と工夫だ。
◆新学習指導要領の歴史教育
中学校では、各時代の共通点や相違点に着目させて
時代の特色をとらえさせる方向性を明記した。
近代と現代を分けて近現代史教育の充実を図ること、
日本の伝統や文化への関心を高めること、
世界史と日本史の関連性を理解させること、などを重視。
http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20081025-OYT8T00192.htm
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