2008年11月16日日曜日

授業を変える(5)店舗実習 磨け社会人力

(読売 11月8日)

実社会の目を徹底的に意識させる試みが始まった。

愛知県内の百円ショップで、名古屋商科大学の学生5人が、
開店前のぞうきんがけに汗を流していた。
掃除が済むと、社員と一緒に「いらっしゃいませ」。
客に商品の説明を求められ、社員を探し回る学生もいる。

アルバイトではない。
同大が4月から、百円ショップを展開する「セリア」(本社・岐阜県大垣市)と
連携して始めた授業「社会人基礎力育成講座」の一コマ。

受講生は、抽選で選ばれた7学部の2~4年生37人。
6チームに分かれ、前期は業界の現状や課題を研究し、発表を重ねてきた。
後期は、その成果をもとに考案した独自の商品陳列棚をセリア側に提案、
「売り上げ増に貢献できる」と認められたチームが実際に棚を持つことができる。

夏休み返上の“店員見習い”は、提案を認めてもらうには
客層や好みなどの把握が欠かせないと、学生が自主的に始めた。
万事に消極的だった開講時とは打って変わった姿に、
担当の亀倉正彦准教授(38)は目を細める。

同大の「社会人基礎力育成講座」の狙いは、
企業から与えられた課題をチームで考えて実行し、
事後に客観的に振り返る総合力を培うこと。
実社会で役立つ力を身につけさせてほしい、という
外部からの要請が起点だが、教員たちも必要性を実感していた。

亀倉さんは、同大に着任して9年。
学生の意欲のなさが気になっていた。
授業中の私語は少ないが、試験をしてみると、全く理解できていない。

開講と同時に、学生たちが人との関係を築くのも不得手だとわかった。
「あいつがいるからチームがまとまらない」と
メンバーの入れ替えを求める学生もいた。
「売り上げ増を見込める商品棚」という課題に必要な
「客の立場で考える」どころではない。
研究室を学生に開放し、頻繁に相談にも乗ってきた。

そうした積み重ねを評価したセリア側の好意もあって、
提案は全チーム採用された。
今月9日までの2週間、愛知と岐阜の3店舗に学生たちの棚が設けられている。

大掃除向けの洗剤や道具をまとめた棚、
「働く女性の癒やし」をテーマに入浴剤が並ぶ棚、
木炭と塩を使った「エコ洗濯」などユニークな組み合わせで
環境と節約を提案する棚……。
どの棚にも、半年以上の苦労がにじむ。
前期から授業を見てきたセリア営業部の佐野満係長(48)は、
「客への気配りができるようになった」と成長を喜ぶ。
子供向け商品は、低い棚に置き換えるなどの工夫に驚いた。

「やっと芽生えたやる気を持続させたい」と亀倉さんは願う。
来年1月には、取り組み全体を振り返らせるため、学外に発表させ、
優秀なチームに投票してもらう計画。

一つの授業で学生を成長させるには、限界がある。
社会へのかかわり方を体得する――
この講座の狙いを、全学的に広げることができるか。
大学の姿勢が問われている。

◆社会人基礎力

経済産業省が養成を提唱している「職場等で求められる能力」。
主体性、働きかけ力、実行力からなる「前に踏み出す力」、
課題発見力、計画力、創造力の「考え抜く力」、発信力、情況把握力、
傾聴力、規律性、柔軟性、ストレスコントロール力を含む
チームで働く力」の三つで構成。

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20081108-OYT8T00164.htm

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