2009年2月1日日曜日

オバマ流スピーチ術 トップも学ぶ

(日経 1月27日)

バラク・オバマ氏(47)が米大統領に就任した。
大統領選中から演説上手で知られるオバマ氏。
日本でも、演説集がベストセラーになるなど注目。
人や組織を動かす言葉の力の秘訣は——。
オバマ流のスピーチのコツを、ビジネスの場で活用している
若き経営者たちに聞いた。

「この人間は信じられる、と思わせるのがオバマ氏の力」と、
グリーの田中良和社長(31)。
SNS(交流サイト)を運営し、昨年12月に東証マザーズに上場。
投資家や取引先などとの会合では、
「真剣に考えて、これが結論だと信じることを話す」のを信条。

一介の州議会議員から一躍、名を上げた2004年の党大会基調演説で
オバマ氏は、「父はケニアでヤギを世話して育ち……」と貧しい生い立ちを語り、
自由と機会の国米国が持つ希望を強調。
「単なるお金もうけではなく、いいサービスをしたいから
会社が始まったストーリーを話す」(田中さん)。
人間味のあるエピソードは、話の印象を強める効果がある。

田中さんは、繰り返すことの重要性も挙げる。
「繰り返しになるが」と前置きし、毎週月曜の全社会議で
「いいサービスをしよう」と社長メッセージを発信。
10回言って1回伝わるかどうか、と心得て決して軸をぶらさないことが、
信頼性につながる。

価格比較サイト運営のベンチャーリパブリックの柴田啓社長(43)は、
親世代の個人投資家を前に、「皆様からすれば息子のような者ですが」と
切り出した。会場から思わず笑みがこぼれる。
昨年11月の投資セミナー。
その3カ月前に大証ヘラクレスに上場し、知名度不足は否めなかったが、
笑顔とユーモアで場をなごませた。

起業前に留学した米ハーバード大学ビジネススクールでは、
人種の異なる級友に分かりやすく説明する訓練を積んだ。
要点は、「論理の流れ」。
準備段階で聞き手が誰かを考え、身近に感じてもらえるテーマを設定。
内容をトピックごとに紙にし、順番を入れ替えて起承転結を練る。
結論を言ってから裏付けを展開するのが米国流。

本番では、壇上を動き回ったりスライドをポインターで指すなどの
「動き」を取り入れている。
オバマ氏が見栄えする一因は、「まっすぐ立つ姿勢にある」、
情熱を表すためキビキビした動作を心がけている。

衣類や雑貨の電子商取引(EC)サイト運営のイメージング(東京・目黒)を
率いる池本克之社長(43)が、オバマ氏に着目したのは昨年春。
予備選で各州を制すると、体全体で喜びを表現するものの、
はしゃぎすぎることがない。
対立候補のヒラリー氏に、厳しい言葉で非難されても感情的にならない。
「感情コントロールのうまさ」は、ビジネスにも生かせる
学者と共著で「オバマ『勝つ話術、勝てる駆け引き』」(講談社)を出版。

共和党のマケイン候補を下した08年11月の勝利演説で、
オバマ氏は「この勝利が誰のものかを私は決して忘れない。
それはあなた方のものだ。あなた方のものなのだ」と畳みかけた。
簡潔な言葉でも熱く伝わるのは、聞き手を巻き込む
「連帯の言葉を大切にしているから」

選挙戦を通じて発し続けた「Yes we can」のメッセージが、
もし「Yes I can」だったら、国民の熱狂はなかったとも指摘。
会議では一方的に話さず、「一緒に考えたい」という姿勢を示すことも重要。

1月20日の就任演説で、オバマ氏は顔をできるだけ左右に振り、
200万人の観衆に視線を行き渡らせた。
これも応用可能で、部屋の四隅を順に見るのがお勧め。
「人民の人民による人民のための政治」(リンカーン)など
米大統領には名句が多い。
単なる語呂合わせや実力とかけ離れた空回りにならないよう注意。

ベストセラー「オバマ演説集」(朝日出版社)の解説を執筆した
鈴木健・津田塾大学准教授に聞いた。

就任演説で、オバマ氏は「60年前、地元のレストランで食事をさせて
もらえなかったかもしれない父を持つ男」と自身に触れた。
パーソナルな物語ではじめて、全米の物語で締める。
多民族国家の米国で、オバマ氏自身が融合の象徴。
話し手自身が、演説の中身を証明する技巧を使っている。

最初と最後が大事だ。
「変化」、「希望」と最初に分かりやすい概念を提示し、次に具体的に展開して、
最後に決めのクライマックスを作る構成がうまい。
ネット時代になり、人の注意が持続する時間はいっそう短くなった。
簡潔な言葉を繰り返すのは、的を得ている。

主語の使い分けも戦略的。
歴代大統領では、ニクソン氏が「私」を繰り返して独善的な印象を与え、
ブッシュ氏が「我彼」の2分法で世界を分断したのに対し、
オバマ氏は「あなた」や「我々」を勘所よく使った。

聴衆と同じ目線に立つ姿勢が、共感を得ている。
ヒラリー氏は、自らの優秀さを誇る上からの目線。
オバマ氏は「こう言います、願います、信じます」のように
3回繰り返すテクニックも多用。
リズムが生まれ、聴衆の注意を引きつける。
これらのレトリック(言語表現の技)は、小さいころから人前で話す
訓練を積む国語教育が土台に。

http://netplus.nikkei.co.jp/ssbiz/bizskill/biz090127.html

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