(読売 1月28日)
離島から、世界に目を向ける授業がある。
取り出したのは、赤や黄、紫など6色のひも。
長崎県立壱岐高校で、中国語の授業を受け持つ呉雲珠講師(56)は、
文法の復習を20分ほどで切り上げると、黒板に「中国結」と書いた。
3年の女子生徒に、「結ぶの文字から連想するものは?」と問いかける。
8人いた生徒のうち1人が、はにかみながら手を挙げ、「ジエフン(結婚)」と答えた。
「そう。中国では幸せと幸せをつなぐ意味がある。
今日は、恋人同士が腕にする中国結びを教えます」と呉講師。
興味津々の生徒たちは、2本のひもで編む中国流のアクセサリーを作った。
長崎県が6年前から始めた離島留学制度。
壱岐高校など離島の県立高校4校に、自然や文化を生かした特色ある
専門コースを設けるとともに、島外からの入学者に県と市で
下宿費用3万円程度を補助、県内外から目的意識の高い生徒を募っている。
玄界灘に浮かぶ壱岐島は、古くから大陸との交流拠点として栄えた。
高校の「原の辻歴史文化コース」は、島の東南部にある国の特別史跡
「原の辻遺跡」から名を取った。
遺跡の発掘や測量など、専門的な技術を学ぶ歴史学専攻と、
語学中心の中国語専攻がある。
コースに在籍する28人の半数が島外出身者。
中国語専攻3年の河野萌さん(18)は大分市出身。
中学3年生の時、新聞で留学制度を知った。
昨秋、九州・山口地区の高校生による中国語スピーチコンテストで優勝。
「島での生活は、家族の大切さを改めて教えてくれたし、
私をひと回り成長させてくれた」。
上海外国語大学への留学を目指している。
呉講師は2年前、県と上海市の教育交流で、同大から赴任。
授業では、中国の新聞や雑誌から最新の流行を読み取らせ、
生徒と一緒にギョーザを作ったりもする。
「伝えたいのは、文化を理解する気持ち。
相手の文化を深く理解できる国際人を送り出したい」と、
校長たちの思いを代弁する。
生徒たちは、通訳や中国語を使う雑誌の編集者などを夢見ている。
国境の島、対馬の玄関口にあたる厳原港で船を下りると、
あちこちにハングルの案内板を目にする。
韓国・釜山とは、わずか50キロの距離。
観光などで、人口の2倍の年間7万人余の韓国人が訪れる。
対馬高校には、韓国人講師から韓国語を学ぶ国際文化交流コースがある。
韓国への語学研修も盛んで、12人の卒業生が韓国の大学に留学。
コース主任の重松真知子教諭(35)は毎春、島外出身の新入生を
ドライブに連れ出す。島の祭りにも生徒を誘う。
親元を離れた生活に不安を抱える生徒が多いだけに、
島の魅力を知り、早く島を好きになってほしいから。
奈良市から来た1年生の狭川典麿君(15)は、祖母が対馬に住む。
街を歩けば、すぐに観光客の韓国語が聞こえてくる。
覚えたばかりの韓国語を使う絶好の話し相手。
2校のほか、五島高校ではスポーツコースを設け、
猶興館高校大島分校(平戸市・的山大島)では農漁業体験を取り入れている。
島外からの入学者は、4校でこれまでに計150人を数えた。
島内からの進学者を加えても、全コースが定員(1学年20人程度、猶興館は40人)
を満たすまでには至っていない。
県教委では、「高い志を持つ高校生が集まり、夢の実現に近づく場所にしたい」
(高校教育課)と、長い目で見守ることにしている。
多感な高校生には、物足りないかもしれない離島の環境。
だが、3年後の姿が明確な生徒には、最高の助走期間になるはずだ。
◆急速に進む過疎化
離島の過疎化が急速に進んでいる。
全国の離島を抱える139自治体が出資する日本離島センター
(理事長・高野宏一郎佐渡市長)によると、離島振興法などの指定を受ける
離島の小中学生は、2006年度で約6万1500人。
10年前の約9万5000人から約35%も減り、国全体の減少率(約15%)の2倍以上。
背景には、子育て世代が離島を離れて生活せざるを得ない現状。
06年度の小中学校数は計868校、高校は63校で、
10年前より、小中学校で111校、高校で8校減った。
離島の学校は地域社会の核でもあり、統廃合や閉校は過疎化を加速化させる。
離島の自然や文化を生かした授業を売り物に、全国から生徒を集めるなど、
独自の教育を打ち出す動きも広がりつつある。
同センターの三木剛志広報課長(41)は、
「島でしかできない教育が、今後ますます重要になってくる」
◆離島振興法
社会資本整備での補助率かさ上げといった優遇措置がある。
沖縄などは別の法律がある。
国土交通省によると、これらの指定を受ける離島は1月現在、全国で312。
http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20090128-OYT8T00292.htm
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