2009年2月3日火曜日

科学立国の明日(3)優れた研究 劣る発信力

(読売 1月25日)

昨年12月10日夜、スウェーデンのストックホルム市庁舎で
盛大なノーベル賞晩さん会が開かれた。
正装の紳士淑女を見下ろすステージから、
日本学術振興会の小林誠理事が受賞者を代表して、
「宇宙には多くの謎が残っており、仲間と一緒に追い続けたい」とスピーチ、
翌朝の地元紙は「日の丸が祝宴を席巻」と報じた。

数ある賞の中でも、ノーベル賞は別格。
自然科学3賞で226人の受賞者を出している米国でさえ、大学などは、
輩出したノーベル賞学者の数を宣伝。

国や研究機関の威光を高めるだけでなく、現実的な利益も生む。
昨年の予算編成で、基礎研究を担う科学研究費補助金(科研費)が2%伸びた。
厳しい財政事情の中、塩谷立文部科学相も「ノーベル賞の効果」。
どの国も、ノーベル賞の「評価」を得ようと躍起。

政府は2001年、「50年間で30人のノーベル賞受賞者を出す」と打ち上げ、
ストックホルムに日本学術振興会の研究連絡センターを新設。
シンポジウムを開催したり、スウェーデン王立科学アカデミーとの
連絡窓口を務めたりして、学術交流を支援。
小野元之理事長は、「特別なロビー活動はしていない。
地道な学術情報の発信や交流がノーベル賞につながる」

ノーベル賞に大国の威信をかける中国政府は、
選考委員を国内に無料招待するなど、情報収集に力を入れる。
スキャンダルに発展するものもあり、昨年12月のノーベル賞授賞式直後、
スウェーデンのメディアなどは、「スウェーデン検察当局が、
汚職の容疑で予備的な捜査を始めた

選考委員らを招くのは、日本の大学なども同じ。
研究者の間では、「スウェーデンからシンポジウムの招待があれば、
断る科学者はいない」と言われるほど。

ノーベル賞の存在は、人口900万人の小国スウェーデンの「価値」をも高める。
日本は、優れた研究成果がありながら、情報の発信がまだ苦手。

ノーベル賞の選考は、研究者からの推薦で始まる。
ノーベル財団から推薦依頼が届くのは、約3000人と限られる。
ある国立大学教授は、「忙しい中、それなりの理由を挙げて
英語で推薦状を作るのは大変」
推薦の「特権」さえ、行使しきれていない。

内閣府幹部が01年、積極的な返信を呼びかけ、
「ノーベル賞の推薦状が机の引き出しで眠る現状は、
日本の研究評価の貧しさを物語る」と批判したが、
評価が根付かない風土は変わらない。

昨年10月、日本人としては史上3人目となる国際科学会議副会長職に
就任した東京大の黒田玲子教授は、
「外国の学者と対等につきあい、人脈を作るのが不得手な人が多い。
これでは、国際社会で日本の存在はアピールできない。
視野を広げ、社会や文化にもっと関心を持つことが必要

http://www.yomiuri.co.jp/science/tomorrow/tr20090125.htm

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