(読売 1月29日)
出前授業が、子供たちの人間力を培う。
「井の中のかわずでは、島を出れば通用しない。
島外の人たちの多様な考えが、子供たちの視野を広げてくれる」
島根県の隠岐諸島・海士町の佃稔教育長(62)が、
町の学校で盛んに行われている出前授業の狙いを語る。
地域社会を築いていける力を「人間力」と規定、その力を養うため、
東京や大阪などから若手実業家や大学生らを招き始めて3年に。
町の人口は約2400人だが、この5年間で100世帯、175人が移住。
豊富な水産資源を生かした起業など、30~40歳代が目立つ。
家族連れを呼び込むには、魅力ある教育が不可欠。
その目玉の一つが出前授業。
町教育委員会の岩本悠さん(29)は、2006年5月の第1回授業の講師。
一橋大学の教授や学生が地域活性化策を探るため、
町に入っており、その縁で依頼。
東京生まれ、東京育ちで、当時はソニーの社員。
大学生の頃にアジアやアフリカの途上国を訪れ、
国際支援活動をした経験を生かした。
生徒たちに、アラブの石油王や貧困国のストリートチルドレンなど、
様々な役割を与えて疑似的な交流をさせ、
「相手を受け入れるだけでなく、自分の魅力を伝えよう。そのバランスこそが自立」
島の未来と重なる言葉。「耳を傾ける生徒の純粋な表情が印象的」
半年後に移住した岩本さんは現在、
人間力推進プロジェクト人づくりプロデューサーとして、
出前授業の人選や交渉を任されている。
出前授業は年5回程度、実施。
学校の改修工事を建築家と検討したり、大学講師と起業を考えたり。
海士中の宇野和福校長(55)は、「小さな集団で育った子供たちが
コミュニケーション能力を高める絶好の機会」と評価。
中学生は4年前から、修学旅行先の東京で、島の歴史や観光スポットを
紹介する試みも続けている。
出前授業は、生徒たちが島の魅力を再認識し、
情報発信する気持ちを強くさせている。
昨年、海士中を卒業した生徒23人のうち、将来Uターンを希望したのは13人。
1年生の頃は4人だけ。
田口啓君(14)(2年)は、「授業で、当たり前に感じていた島の自然や文化が、
かけがえのないものだと気づいた。
自分が島で教師になって、その気持ちを伝えていきたい」と夢を語る。
進学や就職で、大半の若者が一度は島を離れてしまう。
岩本さんは、それでも構わないと思う。
「島に戻りたいと思った時、仕事はないかもしれない。
でも、仕事を作り出せる柔軟な発想を持つ子供を育てたい」
海士中では、昨年12月中旬、コピーライターの栃内淳さんを招き、
町のキャッチコピー作りに挑んだ。
「海産物の宝庫」「満天の星 満点の笑み いっぱいの心」。
生徒たちが書き上げたキャッチコピーを、岩本さんは頼もしそうに眺めていた。
http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20090129-OYT8T00252.htm
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