2009年2月1日日曜日

現場再訪(11)山の生活 子供に自信

(読売 1月23日)

山村の小さな学校が、不登校の生徒の心の扉を開き始めた。

ヘルメットをかぶり、軍手をはめ、長靴をはいた何人かの生徒が、
初体験のチェーンソーと格闘。
硬い幹に刃を当てても、簡単にはね返される。
足場は急斜面で、ひっくり返る生徒が続出。

「油断すると大けがをするから、くれぐれも気を付けて」と声をかけるのが、
「どんぐり向方学園」の学園長、中野昌俊さん(65)(名古屋経済大教授)。
生徒が失敗を繰り返しながら木を切り倒すと、
「すっげえ」「びびった」といった声とともに、「次は自分が」と手が挙がった。

人口約1800人、長野県最南端の天竜村にある学園で、
昨年11月に行われた林業体験。
「ほかの学校ではこんなことはさせないだろうが、ここではあえてさせる。
危険は体験しなければわからない」と中野さん。
教員とともに林業を営む住民も立ち会い、安全には気遣いを欠かさない。

開校は2005年。NPO法人が母体。
不登校経験など様々な事情を持つ小学6年から中学3年までの15人が、
寮生活をしながら学んでいる。
教科学習は午前だけで、午後は体験学習中心。
イネを育てたり、山で植林をしたり、自然に直接触れる課題を取り入れてきた。

「自然は思い通りにいかない。失敗することで工夫を考える。
1人で無理なら仲間と協力する。社会性が身につき、自立する」
という中野さんの考えからだ。
ゲームや携帯電話に没入することを子供に許し、子供を危険から遠ざけている
社会に警鐘を鳴らす。
「自分はできるという自信を獲得する体験の場がない。
子供たちに今それが必要です」

大阪府出身で、入学して2年の森田廉平君(13)(中学2年)は
「外での体験学習が楽しい。自分のやりたいことも自分で計画さえすれば、
やらせてもらえる。来て良かった」と笑顔を見せた。

我が子を送り出すことに親側の抵抗感が大きい。
昨年4月~11月まで、1週間の「体験入学」には16人の子供が参加したが、
入学者は8人にとどまった。
途中で転校する子もいる。それでも、3年間で22人が卒業。

昨春の卒業生、竹居賢治さん(16)は、不登校経験者だが、
今は都内の高校に元気に通う。
「自然に触れたことは全くなかったので、毎日が刺激的だった。
体験しないとわからないことが世の中にたくさんある。
今では教室の勉強がすべてではないと、自分を切り替えられる」

校舎は、廃校になった小学校を村から無償で提供され、
寮も村の予算1億円で建設。
学校法人を作ったことで、県からは年間1000万~1500万円を受け、
寄付も年間約300万円。
「経営的に安定はしているが、施設補修やIT環境の整備など、
積極的な施設整備はできない。児童生徒数は30人程度が目標だ」
開校時から生徒数は横ばい。まずその増加が課題のようだ。

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20090123-OYT8T00235.htm

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