(毎日 2月1日)
微粒子を溶かした水に、レーザー光をレンズで集めて当てると、
光の焦点近くに微粒子が集まる。
光を動かすと、微粒子がまるでピンセットでつまむように自由自在に動かせる。
細川さんは、この「光ピンセット技術」を神経細胞に初めて応用。
神経網が情報伝達に使う物質が詰まった袋(シナプス小胞)を
細胞内で1カ所に集め、中身を放出させることに成功、
この技術を使って神経の仕組みを調べる研究に取り組む。
産業技術総合研究所関西センターの片隅。
「試験工場」と呼ばれるおんぼろ倉庫の中で06年、世界初という研究がスタート。
この年の応用物理学会奨励賞も受けた注目の若手。
「研究の成果はこれから。不安でドキドキです」と屈託なく笑う。
強いレーザー光で神経網を切断し復元する過程を調べたり、
レーザー光の衝撃で特定の神経細胞だけを引きはがし、
配置換えするなどレーザーの多彩な使い方も研究テーマ。
顕微鏡などを駆使して、細胞の中を「見るだけ」の研究から、
積極的に人が操作することで、新たな生命原理の解明や、
医療など応用への道が開けるかも。
「複雑だからこそやりがいがある」と細川さん。
もともと物理専攻で、生き物を扱うのはこの研究が初めて。
実験に使うネズミの解剖も、「最初は泣きながら。何度もやめようと思った」
料亭の一人娘で将来、「女将のたしなみに」と、
幼いころには、三味線を習わされた。
しかし、見えない事実を明らかにしたい、それを人の幸せにつなげたい、
との思いがやまず、地元の中高一貫校から大阪大工学部へ。
「触らず壊さずに対象物に働きかける」という光に魅せられた。
実験で暗室に半日こもることも多いが、
「中では大声で民謡を歌うので、うるさがられることもあります」。
研究の息抜きにと、三味線のレッスンも再開、
今では師範の資格を持つ腕前。
大学の研究室の先輩だった
細川陽一郎・奈良先端科学技術大学院大客員准教授(36)と結婚、
6月1日に初出産の予定。
「私のような任期制研究員でも、育児休暇がとれる。
女性研究者も恵まれた時代になった。
せっかくの休暇中に論文にできるよう、今のうち、
がむしゃらに頑張って実験を重ねたい」と意欲満々だ。
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◇ほそかわ・ちえ
鹿児島県薩摩川内市出身。工学博士。
05年、大阪大大学院工学研究科を修了、06年4月から現職。
科学技術振興機構のさきがけ研究員を兼務。
http://mainichi.jp/select/science/rikei/news/20090201ddm016040038000c.html
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