2009年2月17日火曜日

挑戦のとき/3 産業技術総合研究所研究員・細川千絵さん

(毎日 2月1日)

微粒子を溶かした水に、レーザー光をレンズで集めて当てると、
光の焦点近くに微粒子が集まる。
光を動かすと、微粒子がまるでピンセットでつまむように自由自在に動かせる。

細川さんは、この「光ピンセット技術」を神経細胞に初めて応用。
神経網が情報伝達に使う物質が詰まった袋(シナプス小胞)を
細胞内で1カ所に集め、中身を放出させることに成功、
この技術を使って神経の仕組みを調べる研究に取り組む。

産業技術総合研究所関西センターの片隅。
「試験工場」と呼ばれるおんぼろ倉庫の中で06年、世界初という研究がスタート。
この年の応用物理学会奨励賞も受けた注目の若手。
「研究の成果はこれから。不安でドキドキです」と屈託なく笑う。

強いレーザー光で神経網を切断し復元する過程を調べたり、
レーザー光の衝撃で特定の神経細胞だけを引きはがし、
配置換えするなどレーザーの多彩な使い方も研究テーマ。

顕微鏡などを駆使して、細胞の中を「見るだけ」の研究から、
積極的に人が操作することで、新たな生命原理の解明や、
医療など応用への道が開けるかも。

「複雑だからこそやりがいがある」と細川さん。
もともと物理専攻で、生き物を扱うのはこの研究が初めて。
実験に使うネズミの解剖も、「最初は泣きながら。何度もやめようと思った」

料亭の一人娘で将来、「女将のたしなみに」と、
幼いころには、三味線を習わされた。
しかし、見えない事実を明らかにしたい、それを人の幸せにつなげたい、
との思いがやまず、地元の中高一貫校から大阪大工学部へ。
「触らず壊さずに対象物に働きかける」という光に魅せられた。

実験で暗室に半日こもることも多いが、
「中では大声で民謡を歌うので、うるさがられることもあります」。
研究の息抜きにと、三味線のレッスンも再開、
今では師範の資格を持つ腕前。

大学の研究室の先輩だった
細川陽一郎・奈良先端科学技術大学院大客員准教授(36)と結婚、
6月1日に初出産の予定。
「私のような任期制研究員でも、育児休暇がとれる。
女性研究者も恵まれた時代になった。
せっかくの休暇中に論文にできるよう、今のうち、
がむしゃらに頑張って実験を重ねたい」と意欲満々だ。
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◇ほそかわ・ちえ
鹿児島県薩摩川内市出身。工学博士。
05年、大阪大大学院工学研究科を修了、06年4月から現職。
科学技術振興機構のさきがけ研究員を兼務。

http://mainichi.jp/select/science/rikei/news/20090201ddm016040038000c.html

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