2009年2月20日金曜日

大きな町の小さな五輪:バンクーバー冬季大会まで1年/1 先住民と未来へ歩む

(毎日 2月12日)

五輪は、カナダが一つになる機会となるかもしれない。

昨年7月、五輪スキー競技などの会場となるウィスラーに、
「スコーミッシュ・リリワット・カルチュラルセンター」がオープン。
バンクーバーのあるブリティッシュコロンビア(BC)州の先住民、
スコーミッシュ族とリリワット族の文化や歴史を紹介する施設。
ここで語り部を務めるリリワット族のウィリアム・リッチーさん(48)は、
五輪開会式で、民族に伝わる舞踊を披露する予定。
リッチーさんは、「私たちのことを多くの人に知ってほしい」と、
五輪が自分たちの存在を広めるきっかけになることを期待。

スコーミッシュ族やリリワット族は、昔からBC州南部でカヌーに乗って
サケを取ったり、杉の皮でバスケットを作ったりしながら穏やかに暮らしてきた。
19世紀半ば、「インディアン・アクト」という法律が施行、同化政策が始まる。
イヌイットやインディアンと呼ばれた先住民は、国が定める居住地区へ移住、
子供たちは先住民向け寄宿学校で英語教育を強制。

「自分たちの言葉を禁じられ、文化も忘れるよう強要された」(リッチーさん)。
子供たちは宿舎に閉じこめられ、日常的に教師から暴力も振るわれた。
リッチーさんの妻は、数年前にサッカー場で寄宿学校の教師だった男性を
見掛け、過去の恐怖を思い出して錯乱状態に陥った。

寄宿学校は、96年までは存在。「被害者」は約15万人。
カナダのハーパー首相は昨年6月、
先住民に対する強制入学が誤りだったと公式に謝罪。

先住民の間で、国への怒りやわだかまりは消えてはいない。
五輪に否定的な部族もいる。
しかし、BC州の大きな4部族は、国から「五輪に協力してほしい」と
要請された際、手を携えて積極的に参加することを決めた。
リッチーさんは、「国には、『先住民と一体』という姿勢をPRする狙いがあるが、
我々にとっても自分たちの文化や存在を世界に発信する良い機会」
開会式への参加だけでなく、五輪に合わせて先住民古来の文化と伝統を
紹介する展示会も開かれる。

バンクーバー五輪のロゴマークには、イヌイットのヒト形道しるべ
「イヌクシュク」があしらわれている。
カナダで過去2度、五輪が開かれた時には残っていた
不合理な制度や寄宿学校は、もう存在しない。
リッチーさんは笑顔で言った。
「世界の目が集まる中で踊るのは楽しみです」

http://mainichi.jp/enta/sports/general/archive/news/2009/02/12/20090212ddm035050114000c.html

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