(日経 2009-05-12)
ソニーから誕生したベンチャー企業で、
次世代パネルの電界放出型ディスプレー(FED)量産に挑戦してきた
エフ・イー・テクノロジーズ(FET、長谷川正平社長)が、
金融危機で資金を調達できず、3月に事業化を断念。
液晶やプラズマと比べ、高画質で低消費電力のパネルを開発した
技術は高く評価され、FETの挫折はモノ作りベンチャー受難の時代を予感。
FETが注目を集めたのは、ソニー社内に埋もれたままになりかねなかった
FEDを開発チームごと切り出し、ベンチャーとして事業化に
再チャレンジする機会を得た。
「カーブアウト」と呼ぶ事業再生戦略の採用を支持したのが、
中鉢良治社長(当時、現副会長)。
ソニー創業者の井深大、盛田昭夫氏の、あきらめない起業家精神の
薫陶を受けた世代の中鉢氏ならではの経営判断。
ソニーは、2005年に中期経営方針で、次世代パネルとしては
超薄型の有機EL(エレクトロ・ルミネッセンス)の開発に注力、
製造コスト削減に課題を抱えるFEDは一敗地に。
中鉢氏は、FEDの映像表現力を高く評価。
06年、兼務していたディスプレイ開発本部長賞を開発チームに与え、
「社内に居場所がなくなったFEDを、宝の持ち腐れにするのはもったいない」
と気にかけていた。
カーブアウトを活用したベンチャー設立を、ソニーに働きかけていたのが、
先端技術投資ファンドのテックゲートインベストメント(TGI、土居勝利社長)。
土居氏は、ソニーでワークステーション開発などに携わったOB。
ソニーが組む相手として安心感もあり、提案を聞いた中鉢氏は、
候補としてFEDが頭に浮かんだ。
土居氏は、「カーブアウトの候補として想定していたのは別の技術だったが、
パネル開発のような大型案件を持ち込まれて驚いた。
FED開発チームに、日の目をみるチャンスを与えたいとの
中鉢氏の思いを感じた」
2006年設立したFETは、低価格の液晶やプラズマと同じ土俵で戦わず、
高品質な映像表現が求められる
放送・医療分野の業務用ディスプレーで勝負。
展示会で試作品を公開すると、池上通信機や映像画像機器の
アストロデザインなどが採用を決め、
ニッチ(すき間)市場を攻める戦略は順調なスタート。
昨年夏、FETはプラズマ生産を中止した
パイオニア鹿児島工場の買収を表明。
量産計画を前倒しし、09年から月1万枚(26型換算)規模で生産を開始、
2年後に年商250億円を目指し、株式公開も視野に入れた。
ここまでが絶頂期で、「モノ作りベンチャー期待の星」と、
その名が注目を集めた直後に、奈落の底に突き落とされる。
100億円超とみられる工場買収資金の出資をあてにしていた
企業などから、「お断り」の連絡が相次いだ。
米証券大手リーマン・ブラザーズが破綻、その後の信用収縮で
機関投資家などが新規融資を一斉にストップした時期と重なり、
資金調達は暗礁に。
黒字化するまでの“懐妊期間”が長いモノ作りベンチャーは、
頼みの綱の資金支援のパイプが細れば命取り。
自力生産を断念したFETは、会社清算の手続きに入っている。
経営陣は、FED技術だけは何とか残したいと譲渡先を探し、
中国などアジア勢の手に渡れば、日本の独創技術がまた海外に流出。
ソニーは、FETの第2位の株主だが、経営に口出しせず、
特許や製造設備を有償提供、技術者の出向など支援を惜しまなかった。
米国式経営の統計的管理手法、シックスシグマの活動を見直すなど、
社員のインセンティブを重視し、「ソニーらしさ」の復活に力を入れてきた
中鉢氏が2月末、社長職を退き副会長に棚上げされた
ソニーのトップ刷新人事が、FET挫折とほぼ時を同じくして起きたのは
偶然とは言え、因縁めいている。
深刻な不況の長期化は必至で、大企業は経営資源の選択と集中を
これまで以上に進め、非中核に追いやられた事業や技術を
社内にたくさん抱え込むことに。
カーブアウトは、大企業の埋もれた有望技術を活かす
モノ作り再生戦略として、経団連などが普及に力を入れ始めた
矢先だっただけに、「期待の星」FETの挫折は、
後に続こうとした大企業内の起業家予備軍の
チャレンジ精神を萎えさせないか心配。
http://netplus.nikkei.co.jp/ssbiz/mono/mon090424.html
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