2009年5月23日土曜日

97歳の「出張授業」 人とのつながりを意識 「老いが変わる」「超高齢」を生きる

(2009年5月19日 共同通信社)

「命ってなに」、「時間って何だと思う」
聖路加国際病院理事長、97歳の日野原重明さん
矢継ぎ早に子どもたちに問いかける。

東京都杉並区の四宮小学校で開かれた「いのちの授業」。
聴診器で心臓の鼓動を聞かせる。
心臓の大きさは、拳と同じだと教える。
周りを見ながら手を挙げる子どもたちに、「自分がそう思ったら、
勇気を持って発言することが大事」と声を掛け、歌や冗談で和ませる。

「命は、自分が使える時間を持っているということ。
子どもは、自分のために時間を使っているけど、
大人は人のためにも時間を使うんだよ」

日野原さんは、ここ数年、年30、40回のペースで出張授業を続けている。
若い時は、研究や名誉のことを考えていたという日野原さんには、
1970年、赤軍派がハイジャックした「よど号」に乗り合わせた
「生きるか死ぬか」の体験がある。
「(それを機に)自分の力をどこかに返さなければと思うように。
若い人といると、エネルギーをもらって気力も出る」

85歳以上は、学者の間で「超高齢者」と定義。
東京都健康長寿医療センター(旧・東京都老人総合研究所)の
増井幸恵研究員は、超高齢者の特性を「自分へのこだわりを捨て、
大きな枠組みで、人とのつながりや生命の流れを意識するようになる。
若い世代を、いとおしく思う気持ちも生まれてくる」
調査の結果、体の状態にかかわらず「幸福感」が強い。

85歳以上の人口は、2035年に現在の3倍近い約1000万人に増える見通し。
100歳以上の半数は認知症との見方もあり、
長寿を手放しで喜べない側面も。

高齢者の心理に詳しい権藤恭之大阪大准教授は、超高齢者について
「人生の残り時間を意識し、物事を前向きに考える気持ちが増す」
「活動的な高齢者がもてはやされる中、自分の老いを受け入れられない
60、70代にメッセージを送ってくれる」

年を取ると身体的能力は落ちても、経験に基づく判断力は衰えず、
「むしろ知恵や英知は高まる。老化も遅れてきており、
長く社会で活躍できる」(柴田博桜美林大大学院教授)

日本福祉大の近藤克則教授が注目するのは、他者へのかかわり方。
調査によれば、「高齢者の健康には、誰かに支援されるだけでなく、
自分も誰かを支援するのが最も好ましい」
「高齢者が、地域とかかわる仕組みをどう作るかが社会の大きなテーマ」

この見方に沿った活動が、各地で始まっている。
愛知県北名古屋市では、高齢者が地元の子どもに、
地域の文化を伝えるため、石臼など昔の道具の使い方を教えている。
最高齢は96歳の竹内正子さん。
「子どもと一緒だとうれしいし、感謝の気持ちで一杯に。
年とともに、かわいさが増してくる」

各地で活動する「新老人の会」の兵庫県支部は、
小中学生に戦争体験を伝えている。
メンバーの綱哲男(82)さんは、「『沖縄のような小さな島で戦争をしないで、
となぜ言わなかったのですか』と問われ、はっとさせられた。
大人が子どもを守らなければ。そこに私たちの出番がある」

「超高齢者が増えていけば、大きな経済成長が望めない
今の日本にふさわしい新しい生き方をもたらすのではないか」
都長寿医療センターの増井研究員は期待。

世界に例のないスピードで進んだ日本の高齢化。
国民の5人に1人が65歳以上という「前例のない高齢社会」
活躍する高齢者。支える人々。老いの今を追った。

http://www.m3.com/news/GENERAL/2009/5/19/98758/

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