(2009年5月15日 毎日新聞社)
森林浴の効果を科学的に明らかにし、病気の予防や健康増進に
役立てようという取り組みが進んでいる。
新緑の季節に、専門家と森を歩き、その効果を探った。
東京都の奥多摩町。
都の4割の森が集中し、スギやヒノキ、ミズナラが広がる。
昨年、秩父多摩甲斐国立公園の一部の2482ヘクタールが、
森林浴効果が科学的に認められた「森林セラピー基地」に認定。
それを記念したイベントが、現地で開かれた。
町民に加え、東京や埼玉など都市部の住民約50人が参加。
森の中で音楽会を楽しみ、ストレッチで体をほぐした。
奥多摩湖畔の森を、町認定の森林ガイドの案内で散策。
新緑はまぶしく、木漏れ日が降り注ぐ。
参加者は、癒やしのひとときを過ごした。
参加した男性は、「東京にこれほど豊かな自然があることに驚いた。
リラックスできる」
ガイドの土屋一昭さん(31)は、「自分も都心で働いていたとき、
精神的に落ち込んだ時期があった。1週間、奥多摩の森に通ったら
元気になった。森林の魅力を多くの人に伝えたい」
森林セラピーとは、「科学的証拠に裏付けられた森林浴効果」を意味。
NPO「森林セラピーソサエティ」が公募し、
専門家が森林浴効果を現地調査。
認定されたセラピー基地やセラピーロードは、全国で38カ所。
調査にかかわる宮崎良文・千葉大教授(生理人類学)は、
「測定機器の進歩で、野外調査ができるようになり、
森林浴効果の科学的データが急速に蓄積されてきた」
調査では、公募した男性を2群に分け、森林と都市部でのストレスや
緊張度合いを示す数値を測定し比較。
指標となるのが、唾液中ストレスホルモン「コルチゾール」や血圧、心拍数。
35カ所で約420人を対象にした実験では、
森林で15分いすに座って景色を眺めた群では、
都市部の駅前などで座った群に比べ、
コルチゾール濃度は12・4%低下。
リラックスしていることを示す副交感神経系の活動は55%高くなった。
森林浴のこうした効果は、視覚(森林の景色)、嗅覚(木の香り)、
聴覚(葉ずれの音や小川のせせらぎ音)、触覚(樹木や葉、地面の感触)、
味覚(わき水の味など)の五感が刺激されることで起こる。
森林の中で独特の香りを感じるのは、
植物から発散される物質「フィトンチッド」の効果。
日本医科大の李卿・講師(森林医学、環境免疫学)が、
男女延べ37人に行った実験では、森林浴によってストレスが軽減し、
免疫細胞の一つ「NK細胞」の働きが高まる。
李講師は、「フィトンチッドが体内に吸入されたり、
嗅覚神経から脳に作用し、自律神経のバランスを調節することで、
免疫系に働くと考えられる」
宮崎教授は、「森林浴は、免疫力を高めて病気を予防したり、
健康増進につながる。
森林の香りが好きな人もいれば、風景を楽しむ人もいる。
新緑が芽吹く季節を好む人もいれば、紅葉が好きな人もいる。
自分の興味のある自然環境と同調することで、
より効果的な森林浴ができる」
より詳しく知りたい人は、森林の癒やし効果の国内外の研究結果や
森林セラピー基地構想についてまとめた
「森林医学2」(朝倉書店、4725円)が参考。
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◆森林セラピー基地のある自治体
北海道鶴居村、秋田県鹿角市、宮城県登米市、山形県小国町、
新潟県津南町、妙高市、長野県上松町、木島平村、飯山市、信濃町、
佐久市、小谷村、山ノ内町、群馬県上野村、東京都奥多摩町、
神奈川県厚木市、山梨市、津市、富山市、滋賀県高島市、
和歌山県高野町、岡山県新庄村、島根県飯南町、山口市、
高知県津野町、檮原町、福岡県黒木町、うきは市、篠栗町、
宮崎県日之影町、綾町、日南市、鹿児島県霧島市、沖縄県国頭村
◆森林セラピーロードのある自治体
岩手県岩泉町、長野県南箕輪村、東京都檜原村、静岡県河津町
http://www.m3.com/news/GENERAL/2009/5/15/98271/
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