(毎日 7月28日)
放射性炭素(C14)年代測定法は、どこまで確かな年代を出せるか?
国立歴史民俗博物館の研究グループが、
卑弥呼の墓とする説がある箸墓古墳の築造年代を推定した
科学手法の現状と課題を探った。
炭素原子(C)は、C12、C13、C14という三つの同位体。
C14は、時間とともに窒素に変化するが、
宇宙線の作用で、同じだけのC14が窒素から生成、循環し、
大気中の二酸化炭素やそれを取り込み、生物が持っている炭素の中で、
C14が占める比率(C14濃度)は一定を保つ(約1兆分の1)。
遺物では、新たな炭素の取り込みがなく、C14だけが減少、
C14濃度を測定することにより、死滅後の年数がわかる。
加速器質量分析(AMS)法の導入によって、微量の試料で測定でき、
考古学的な編年の物差しである土器の付着炭化物(こげやすす)を
測定する方法が、90年代に開発。
歴博が、箸墓の年代推定に用いたのもこの方法だが、
何によってできた炭化物かがわかりにくいという難点。
大気中で生成されたC14が、CO2の形で海に溶け、循環するには、
時間がかかり、海洋生物が持つC14濃度は陸上生物より低い。
C14濃度が低く、海産物のC14年代は全海洋の平均で、
年によって最大約400年も古くなり、
海洋深層水が上昇している海域では、さらに古い値に。
名古屋大学の宮田佳樹・研究機関研究員は、
同一の地層から出土した炭化材、貝類、海生動物の骨、
土器付着炭化物を測定。
遺跡の年代を示す炭化材より貝類が古く、
水深約50メートルまで潜り、表層の魚を捕るウミスズメはさらに古く、
水深約200メートルまで潜って深層の魚を食べるニホンアシカは
さらに古いC14年代を示した。
深くなるほど、海水のC14濃度が低くなる。
土器付着炭化物の中には、ニホンアシカよりさらに100年以上
古い年代を示すものがあった。
何らかの化学変化で、土中の古い炭素を吸収したためとみられるが、
詳しい原因は未解明。
大気中のC14濃度も、C14を生成する太陽の活動によって
年ごとに変化している。
C14年代法研究をリードしてきた名古屋大学の中村俊夫教授は、
大気循環の変化により、C14濃度に局所的なむらができる、
という最近の研究を紹介。
樹木年輪と照合して作成した国際標準のデータベースで、
C14年代を実年代に直すと、日本では古墳出現期を含む
1~3世紀に、最大約100年古くずれる。
歴博グループが用いた日本産樹木年輪による
日本版データベースの完成と検証、公開が待たれる。
古墳研究をリードしてきた白石太一郎・大阪府立近つ飛鳥博物館館長は、
C14年代法の実用性を認めつつ、
年代データを利用する考古学の側の問題を指摘。
箸墓の築造年代は、同時期とみられる古墳に副葬された
鏡の年号や型式編年をもとに、240~290年と考えられている。
歴博グループが、周濠から出土した布留0(ふるゼロ)式土器の年代を、
「240~260年」と推定したのはこれと矛盾しない。
同じ型式の土器が、築造の初期段階とみられる土取り穴から出土し、
周濠から出土したから築造直後の年代であるとして、
箸墓は卑弥呼(247年ごろ死亡)の生存中に築かれた
「寿陵」だった可能性がある、
とまで論じているのは全く根拠がないと批判。
土器は、1型式に20~30年の幅があり、
2型式が併存することもある。
C14年代法は、条件がよくても20~30年の測定誤差があり、
正確に実年代に直す方法は研究の途上。
数年刻みの目盛りではないという、それぞれの方法上の限界を
踏まえてこそ、考古学と自然科学の実りある共同作業になる。
http://mainichi.jp/select/science/archive/news/2009/07/28/20090728dde018040026000c.html
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