2009年8月3日月曜日

トヨタに勝るノキア生産方式の底力

(日経 2009-07-30)

携帯電話機最大手のノキア(フィンランド)が、復活の兆し。
景気悪化による需要縮小と、韓国メーカーの攻勢で昨年以来、
業績が落ち込んでいたが、今年4~6月期決算では、
前の期に比べて大きく改善。

そのエンジンとなったのが、ノキア独自の生産・販売方式の“再点火”。
危機を経て、原点に立ち返ったノキアが、再び攻勢に転じる。

ノキアのオリペッカ・カラスブオ最高経営責任者(CEO)は、
「厳しい状況にもかかわらず、ノキアは底堅い業績を示した。
市場シェアは、わずかながら上昇。
市場回復の兆しもあり、追い風が吹き始めている」

ノキアが発表した業績は、純利益が前年同期比73%減の
2億8700万ユーロ(約380億円)。
大幅な減益には違いない。
今年1~3月期の純利益が、同99.7%減の400万ユーロと
最終赤字転落寸前まで追い込まれたのに比べ、大きく改善。

市場シェアも38%と、08年第2四半期の40%からは落ちたが、
今年の第1四半期の37%からは上昇。

特に、携帯電話機の販売台数は前の期よりも10.7%増の
1億320万台、念願だった1億台の大台を回復する伸び。
多くの点で、前年同期より少ないが、前の期と比較すれば増加傾向。
これらの状況から判断すると、
ノキアの業績は今年第1四半期が底で、第2四半期は回復の過程に。

回復の要因となったのが、「量への回帰」。
英国では、「バイ・ワン・ゲット・ワン・フリー(1台買えば、2台目はタダ)」
という販売キャンペーン開始。

安売りに走れば、泥沼の値引き合戦になる可能性もあったが、
市場の動向を見極め、ある程度単価が下がるのは織り込んだ上で、
一気に攻勢に出た。

販売単価は62ユーロと、1年前から12ユーロ、
前の期に比べても3ユーロ下落。
欧州でライバルとなるソニー・エリクソンが122ユーロと高水準で、
前の期から比べ2ユーロ上昇したのとは対照的。

この1年、人員削減などリストラで体質改善に努め、それも一段落。
好機とみて、年後半にかけて、さらに販売攻勢に出る。

世界最大の携帯電話機メーカー、ノキアの強みはコスト競争力。
「量」を確保すれば、調達や生産で大きなアドバンテージ。
単価が落ちても、それ以上のコスト削減が見込める。
量を増やすだけでなく、基本ソフト(OS)は3種類に集約。
毎年新機種だけで50~60機種、全体で150機種以上もある。
量産効果を発揮するとともに、商品の生産を簡単にした。

最終の組み立て工場は、ほぼ自社所有。
ライバル他社に、付加価値が低いとみて最終組み立て工程を
外部委託する社が多いが、ノキアは
「迅速に、効率よく、無駄なく生産するには、自社生産が不可欠」
(ユハ・プッキランタ上級副社長)として、自社工場にこだわる。
主力ではないCDMA規格の商品や季節要因で、
一時的に増産が必要の際は外注するが、全体の2割程度。

量を生かす「規模の経済」を、より効果的に実現するための司令塔が、
ノキア独自の「ディマンド・サプライ・ネットワーク(DSN)」。
サプライヤーと工場、本社や販売店など、総合的ネットワークで結び、
在庫を圧縮すると同時に、販売店への商品供給を迅速に行う。

アルゼンチンの販売店から注文を受け、中国のサプライヤーに
部品を発注し、メキシコの工場で生産する手はずを整えるのがDSN。
アルゼンチンの販売店に商品が届くまで、約2週間。
これはほぼ最悪のケースで、通常はもっと短い期間で商品を供給。
そのリードタイムは、業界で最も短いと評される。

米調査会社AMRリサーチによると、全業種を対象にした
サプライチェーン・ランキングで、ノキアは2007年、
長くトップに君臨していたパソコン大手のデルを抜いて1位。
08年、アップルにかわされ、2位となったものの、
携帯電話機の専業メーカーでは断トツ。
生産方式で日本を代表するトヨタ自動車や、
スーパー大手の米ウォルマート・ストアーズをしのぐ強さ。

供給(サプライ)面に加え、DSNのもう1つの強みが、
需要(ディマンド)予測。
販売現場と協力し、需要予測を立て、効率的な生産につなげる
「CPFR(協調立案による予測と補充)」という考え方を導入。
小売業界で広まりつつあった先端手法を、携帯電話機業界に
いち早く持ち込み、正確な需要予測と製品供給に役立てた。

POS(販売時点情報管理)などの情報や企業戦略を、
販売店などに積極的に公開して共有、ともに販売戦略を練る手法。
ノキアが2005年、工場を建設し、いち早くインドに進出、
販売網を整備した上で、同国の携帯電話機市場を席巻したのも、
CPFRを活用した需要予測が大きな役割を果たした。

「ノキアの怖さは、需給両面にあるが、特に需要予測はまねできない」
と、ある日系電機メーカーの幹部。
ノキアが需要予測を基に、本格的に動き出したとしたら、
市場シェア40%を握っていた時代以上の力を持つことも。
「巨人」と称されたノキアが、さらに大きくプレゼンスを強めて
復活を遂げる日も近いかもしれない。

http://netplus.nikkei.co.jp/ssbiz/ittrend/itt090729.html

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