(読売 7月29日)
美術館や動物園を含めた、様々な博物館による
教育普及活動が広がりつつある。
樹木の途中に置かれたご飯入りの竹筒をとろうと、
マレーグマが指先からツメをのばして登り始めた。
「うわぁー」、「忍者みたい」、「かわいいね」と歓声。
上野動物園動物解説員の小泉祐里さんが、
「ツメの動かし方を見て下さいね。歩き回っている時、
足の裏や足の運びもよく観察してください」
上野動物園、国立科学博物館、東京国立博物館で、
セミナー「上野の山でクマめぐり」が開かれた。
ライオンめぐり、ゾウめぐりに続き、今年で3回目。
ホッキョクグマ、マレーグマ、ヒグマ、ツキノワグマの生態を観察し、
歩いて数分の科学博物館へ。
クマ7種のあご骨などを見ながら、同館動物研究部研究員の
川田伸一郎さん(36)から、歯やあご、手や足の特徴などの話を聞く。
「ツキノワグマが木の実を食べている時はどうでしたか?」、
「マレーグマの足骨はこんな風に曲がるんでしたね」
東京国立博物館では、神辺知加研究員から説明を受け、
熊毛とみられる材料を用いたよろいかぶとや、
金太郎とクマが描かれた日本の絵、
クマをかたどった中国の皿やツボなどを鑑賞。
動物園の小泉さんが再登場。
「絵の中のツキノワグマに注目して下さい。
描かれている左足の後ろのでっぱりが、本物にはない。
昔の人が、十分クマを見切れていない部分もある」
一般参加者30人に、3館園の動物解説員、研究員らが同行、
自らの専門知識を披露するという連携プレー。
主婦、田中瑞生さん(60)は、「骨格標本の比較も初めてだし、
クマという一つのテーマに沿って、いろんな見方ができ、勉強に」
美術館、動物園、水族館を含む博物館の世界では、
展示、収集・保存、研究が主要な業務。
資料収集の資金が不足し、展示だけでは集客がおぼつかないことや、
博物館の社会貢献を積極的に推し進めてきた欧米の影響により、
教育普及に力を注ぐことで存在意義を高めようとする
ケースが増えている。
科学博物館は、いち早く「開かれた博物館」というテーマを掲げ、
科学を一般人にわかりやすく伝えるサイエンス・コミュニケーターの
養成実践講座をはじめとした、学習支援制度の充実ぶりは有名。
東京国立博物館も、各種講演会、講座、
ボランティアガイドツアーなどを開催。
動物園や水族館は、展示自体に教育的な意味合いがあるが、
上野動物園では2006年から、見ている動物についての
関連情報が得られる「ユビキタス携帯端末」を貸し出すなど工夫。
博物館の垣根を超えた連携も広がり始めた。
国際博物館会議(本部・パリ)が、1977年「国際博物館の日」
(5月18日)に、国内でも7年前から毎年5月、
多くの博物館が常設展入場無料を実施、地域連携イベントを開催。
「上野の山でクマめぐり」もその記念事業の一つ。
国立西洋美術館、東京都美術館など上野地区の9施設で
共同のイベントも行われた。
年間1億数千万人が訪れる大観光スポットながら、
館同士の連携は目立たなかった上野公園に、新しい息吹。
各地の博物館は今、どんな取り組みを進めようとしているのか。
◆展示物の魅力 学習効果期待
「いつでも、だれでも、自由に学べる」博物館。
生き物から標本、歴史資料や芸術作品まで、展示されている
実物の魅力や面白さを学ぶ「実物教育」の場。
博物館教育の活用は、小、中、高校の新学習指導要領にも
改めて位置づけられた。
各自の興味に応じた学習が可能で、カリキュラムに沿って
限られた時間で行われる学校教育とは異なる効果が期待。
財政難で閉館や業務縮小を迫られる館も少なくないが、
業績を利用者数だけで測れば、お楽しみイベントを集めた
テーマパークとなってしまう。
元上野動物園園長でもある中川志郎・日本博物館協会顧問(78)は、
「本来、文化・教育は金もうけの手段ではない。
地域に支えが得られるかがかぎではないか」
中国、韓国などアジア地域の博物館で、
「アジア博物館学会」を設立する動きも。
水嶋英治・常磐大学教授(52)は、
「壊さず保存する『石の文化』の欧米と、腐るためにいったん壊して
作り直す『木の文化』のアジアでは、博物館の在り方も違う。
アジアの視点を持つ学会を拠点に、
博物館教育の質をさらに向上させたい」
http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20090729-OYT8T00299.htm
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