2010年2月15日月曜日

理系白書’10:挑戦のとき/22 防災科学技術研究所主任研究員・長江拓也さん

(毎日 2月9日)

「ブレーブテスト(勇気ある実験)」
国際学会で発表するたび、規模の大きさに称賛の声。

95年、阪神大震災を機に建設された実験施設
「E-ディフェンス」(兵庫県三木市)。
実際に観測された地震波などを再現し、実物大のビルや家屋を
丸ごと揺らすことができるこの施設で、
長江さんは超高層ビルの耐震性を研究。

揺れを作り出す震動台は、縦15m、横20m。
台上に、実際に建設会社が建造した鉄骨4階建てのビルを据え、
その上に4枚のコンクリート板(重さ約700トン)を重ねる。
20階建てを想定した「模擬高層ビル(高さ21m)」。
このビルを、揺れ1往復に2秒以上かかる
「長周期地震動」で揺らす。
近い将来起きる可能性の高い巨大地震、
東海・東南海・南海地震で生じると考えられる震動。

実験中、制御室の窓から上をのぞくと、
ビルがしなりながら揺れている。
万一に備え、倒壊を防ぐ鉄製ストッパーなどの対策を施し、
「強度計算も全部自分でやっているから、
うまくいくかどうかドキドキした」と振り返る。

実験では、揺れのエネルギーが鉄骨の柱とはりの接合部に
集中して切断することが確認できた。
実際に起きれば、ビル自体が使えなくなる深刻な被害。
同じビルに、油圧ダンパーと呼ばれるエネルギー吸収装置を
付ければ、被害を防げることもわかった。
「超高層ビルを、耐震改修しなければいけない根拠を示した
初の実験」と胸を張る。

明治大で建築を学んだが、もともと目指していたのはデザイナー。
子供のころ、家が増築されたのがうれしくて、
「設計は、みんなに喜んでもらえる仕事」と思ったから。

2年生の95年1月、成人式のため帰省していた愛知県の実家で、
阪神大震災の揺れに遭遇。
「こんなことが本当に起きるのか、という大災害。
起きないためにどうしたらいいのか」と志望を変え、
耐震工学を専攻。
コンクリートや鉄骨構造などを学び、今のテーマにたどりついた。

耐震工学は、実際の被害を教訓に知見を積み重ねてきた分野。
「超高層ビルなどが密集した都市が、
巨大地震で被害を受ければ、日本は立ち直れなくなる。
これまでのやり方は当てはまらない」と危機感。

「超高層ビルは、解体する方法がなく、どうやって地震後も
使い続けられるようにするかを真剣に考えなければ。
そのためには、被害を予測して予防しなければならない。
被害を実際に見るための実験がとても大切
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◇ながえ・たくや
74年、愛知県瀬戸市生まれ。東京工業大院博士課程修了。
米スタンフォード大、京都大研究員を経て、06年から現職。

http://mainichi.jp/select/science/archive/news/2010/02/09/20100209ddm016040196000c.html

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