2010年2月20日土曜日

資源を追え、変わる海運「航海図」

(日経 2010-02-10)

2009年の海運業界は、資源や穀物を運ぶばら積み船だけが活況。
運賃の値動きを示すバルチック海運指数(1985年=1000)は、
年初に底入れした後、11月には底値から6~7倍の水準に。
けん引役は中国で、09年の鉄鉱石の輸入量は6億2000万トンと
過去最高を記録、石炭の純輸出国から純輸入国に転じた。

中国需要が海運市況をけん引する構図は、
リーマン・ショック前と同じに見えるが、実は資源を運ぶ
「航海図」は塗り替わり、海運・鉱山会社は新たな戦略
描き始めている。

昨年来、積極的な動きを見せているのは、
ブラジルの資源大手、ヴァーレ。
鉄鉱石を運ぶばら積み船を購入、自社保有船を増やし、
マレーシアには鉄鉱石輸送の拠点港を建設。
日本郵船の小笠原和夫経営委員は、
「船を自社で運航することで、運賃を安定させる狙い」

ヴァーレは、年間2億5000万トンの鉄鉱石生産を、
5年後には4億トンに拡大する計画。
売り先として最も注目しているのは中国。

◆バルチック海運指数

鉄鉱石や石炭を運ぶ、ばら積み船の運賃を示す国際的な指標。
英ロンドン海運取引所が、世界の海運ブローカーを対象に調査、
毎日発表。指数が上昇すれば、運賃が上昇。

ブラジル産の鉄鉱石は、世界最大のオーストラリア産と競合。
「ブラジル−中国間」の輸送時間は、「オーストラリア−中国間」の3倍。
運賃も高くつき、主要な買い手である中国市場における競争力が劣る。
効率よく大量輸送できる40万トン積みの超大型鉱石運搬船(VLOC)
などで、ブラジルからマレーシアに鉱石をピストン輸送、
中国や日本、韓国などに振り分ける計画。

ヴァーレの増産による恩恵は、日本の海運会社にもありそう。
商船三井は、中国鉄鋼大手の鞍山鋼鉄との間に、
ブラジル−中国間の鉄鉱石輸送で5年間の契約、
日本郵船はヴァーレとの間に2012年から20年間の輸送契約。

長期契約がなくても、ばら積み船市況は力強いという見方も。
昨年6月、商船三井の副社長から第一中央汽船の社長に転じた
小出三郎氏の分析はその代表格。
「長期契約は安定利益というが、薄利多売にすぎない」
利益を最大化するためには、リスクをとりながらも
すべての船をスポット市場に割り振ったほうがいい。

背景に、「今後20~30年、ばら積み船市場には追い風」という見方。
世界各地で建設計画がある鉄道。
土木工事に加え、線路や車両、設備などには鋼材が欠かせない。
鉄鋼原料の輸送ルートは、中国を中心とする東アジアだけでなく、
米国や欧州も増える可能性。

2009年、ばら積み船市場で中国に次いで
存在感を高めたのがインド。
南アフリカ共和国から大量の石炭を輸入し、中国には鉄鉱石を輸出。
川崎汽船の今泉一隆執行役員は、
「インドの石炭輸入は今後も増える」と予測。
電力インフラが不足し、安価な発電用石炭の需要は高まる。
粗鋼生産の拡大に伴い、鉄鋼用石炭の輸入も増えるという見立て。

製鉄用の石炭はアジア地域で不足、日本や韓国の製鉄会社は、
一部を米国から輸入する動きも。
どこからどこへ資源を運ぶのか。
海運会社が関心を抱く国や地域を追いかければ、
新たな成長市場のフロンティアが見えてくるかもしれない。

http://netplus.nikkei.co.jp/ssbiz/shikyou/shi100209.html

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