2010年2月17日水曜日

新日鉄も実験、CCSは切り札か

(日経 2010-02-08)

昨年12月、コペンハーゲンで開かれた
第15回気候変動枠組み条約締約国会議(COP15)で、
世界全体の長期目標として、気温上昇を2度以内に抑えるべく
行動することが盛り込まれた。

これは、世界の温暖化ガス排出量を2050年までに
ほぼ半減させることを意味。
13年以降、当面の削減の枠組み(ポスト京都議定書)の交渉に
進展がみられなかったことに隠れてしまったが、
長期目標の方は改めて確認された形。

CO2大幅削減は、人類にとって初めての経験。
長期目標をおおむね共有しているとしても、そこに至る道程で、
意見の相違や試行錯誤があってもやむを得ない。
そういったチグハグぶりの中には、見逃せないものも。

それは、CO2回収・貯留(CCS)をめぐる問題。
石炭火力発電所や製鉄所の高炉などの排気の中からCO2を分離し、
地中などに封じ込めてしまう技術。

CO2を直接、大量に削減できる技術として、
先進国を中心に関心が高く、日本でも高炉大手が手を組んで
今春から新日本製鉄君津製鉄所で、高炉ガスから
CO2を分離・回収する実験を始める。

排出削減の決め手とされ、略称の知名度も上がってきた。
実のところ、京都議定書のクリーン開発メカニズム(CDM)に基づく
排出枠を生み出す手段として、認められていない「中途半端」な存在。

国際エネルギー機関(IEA)によれば、現行の省エネペースを続けた
程度では、50年には世界の温暖化ガス排出量は
05年比2.3倍の620億トンまで増える。
気温上昇を2度以内にする長期目標の条件を満たすには、
排出を140億トンまで抑え込まないとならない。

ギャップの480億トンをどうするか?
IEAの技術予測を織り込んだ分析では、19%をCCSが稼ぎ出す。
再生可能エネルギーの21%、原子力発電の6%と比較し、
いかに期待が大きいかが分かる。

先進各国が、ポスト京都で大幅な削減目標を受け入れても、
国内の自助努力だけでは達成は難しい。
海外から規模の大きな排出枠を調達する手段を確保するため、
CCSをCDMの中に位置付ける必要。
経済発展の過程で、化石エネルギーへの依存度が高まってくる
途上国にとっても、CCSは有効な温暖化防止対策。

05年、CCSのCDM化が適当かどうかを検討する作業が
始まったが、いまだに結論は出ていない。
コペンハーゲンでも、「CDM化することを推進する」との合意文書は
採択したものの、実質的に先送りに。

国際協力銀行の本郷尚・環境ビジネス支援室長は、
膠着の理由について、「技術上の問題や地中からのCO2漏出への
懸念よりも、排出量取引市場への影響がネックに」
大量の排出枠を生み出す可能性を秘めたCCSを認めれば、
既存の排出枠価格が下落しかねない。

CDM化に反対している代表格が、ブラジル。
ガソリンに代わる自動車燃料、バイオエタノールの生産大国だけに、
CCS活用による排出削減の加速が、自国の「特産品」の需要増に
水を差しかねない。

過去の議論の歴史をひもとけば、植林のCDM化を狙う南米勢と、
CCSを有望視する欧州・中東産油勢がけん制し合い、
両論併記に持ち込む駆け引きに終始。
COP15でも、CCSのCDM化をめぐって、
「サウジアラビアやブラジルが、互いの主張を人質にとったような状態」

地球温暖化防止のために何をするべきか——。
「ポスト京都」論議の混迷ぶりを含め、排出量取引など
低炭素社会の仕組みが定着し、経済を規定するようになるにつれ、
「原点」とのきしみが大きくなってきている。

http://netplus.nikkei.co.jp/ssbiz/tanso/tan100205.html

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