2010年2月16日火曜日

諸外国から学ぶスポーツ基本法:フランス

(sfen)

◆フランスのスポーツ基本法の形成

フランスにおけるスポーツ法は、
第1に、1940年のスポーツ組織に関する法律、
1945年のスポーツ非営利社団、リーグ、連盟および団体に関する
臨時立法、学校および大学のスポーツ組織に関する臨時立法など、
スポーツ団体組織を中心に制定され、
特別なスポーツ団体法が形成。

第2に、1940年代から1950年代に、スポーツ活動の安全を
確保するため、スキー、水泳、山岳ガイド、柔道の
指導者資格に関する特別法が制定。
1963年、スポーツ教育者の職業資格全体に関する法律が制定。

第3に、1958年にド・ゴール政権となり、1960年ローマオリンピックでの
惨敗を契機とし、スポーツ行政の強化が求められ、
1966年青少年・スポーツ省が設置、スポーツ専門の公務員制度が確立、
総合的なスポーツ政策が展開、関連する法令の整備が進んだ。
1961、1965、1971年、スポーツ施設に関する長期計画法が制定。

以上の法令の展開を受け、1975年フランスにおける最初の
スポーツ基本法「体育およびスポーツの発展に関する法律」制定。
同法は、教育改革の影響も受けて、
体育とスポーツの両方の基本を定めた。
ヨーロッパみんなのためのスポーツ憲章の制定に対応し、
あらゆる人が、あらゆる水準で、スポーツ活動に参加する
自由と平等の原則を定めた。

1984年、「身体的およびスポーツ的活動の組織および促進に
関する法律」が制定。
同法は、1941年スポーツ施設に関する法律、
1963年スポーツ教育者の職業資格に関する法律、
1975年スポーツ基本法を廃止、
それまでの関連する諸規定を統合。

第1条では、「身体的およびスポーツ的活動の発展は、
一般の利益にあたり、身体的およびスポーツ的活動の実践は、
性別、年齢、能力または社会的条件がいかなるものであろうとも
各人にとって権利である」と、スポーツに関する権利を定めた。

関連するスポーツ判例法の影響を受け、
スポーツ連盟に公役務の任務を与え、スポーツ連盟の処分決定に
関する紛争を、行政裁判所の管轄として認めた。

◆フランスのスポーツ法典

1984年スポーツ基本法は、①学校体育・スポーツ、
②スポーツ会社、③地方公共団体、④プロフェッショナルリーグ、
⑤プロフェッショナルスポーツ(選手契約・代理人)、
⑥自然スポーツ、⑦公開スポーツ施設、⑧スポーツ行事の安全、
⑨スポーツ行事の放送・営業権・放送の自由、⑩段位交付、
⑪スポーツの財政、⑫海外における法の適用について、
関連する諸規定が追加、改正された。

スポーツの経済的活動など諸課題の解決と、
安全なスポーツ環境の整備を目的として改正が行われた。
学校体育について、教育行政への統合が求められ、
教育法典の体系に組み込まれることに。

フランスにおいて、ドーピングに関する特別な法律が制定。
最初のドーピング法は、1966年制定、1989、1999、2006年に
新しい法律が制定。
フランスドーピング法は、ドーピング対策とスポーツマンの
健康の保護の両面を定め、
2000年公衆衛生法典の特別法としても位置付け。

フランスにおける法典化、法の簡素化に関する政策の影響を受け、
スポーツ法は、1984年スポーツ基本法、ドーピング法、
教育法典における体育・スポーツ教育に関する規定を
中心にまとめられ、2006年スポーツ法典として編さん。

スポーツ法典は、4編14章32節254条からなり、
第1編:身体的およびスポーツ的活動の組織、
第2編:スポーツのアクター、
第3編:スポーツ実践、
第4編:諸規定から構成。

スポーツ法典は、①組織、②人、③実践のレベルから構造化。
具体的には、スポーツ法の一般原理、国、地方公共団体など
公法人によるスポーツ振興の責務、スポーツ非営利社団、
スポーツ会社、スポーツ連盟、プロフェッショナルリーグ、
フランスオリンピックスポーツ委員会、スポーツ調停、
スポーツの職業教育、有償スポーツ教育と資格、
高水準スポーツ、プロフェッショナルスポーツ、選手契約、
スポーツ代理人、スポーツマンの健康、ドーピング対策、
動物ドーピング対策、自然スポーツ、スポーツ施設、スポーツ保険、
スポーツの衛生および安全、スポーツ行事の組織および安全、
スポーツ行事の放送、スポーツの財政、海外適用規定など
多様な規定がある。

◆日仏のスポーツ法の比較と提言

日本において、フランスのスポーツ基本法、スポーツ法典のように、
スポーツに関する特殊な法体系の基本を定め、
その整備を図る必要がある。

第1に、公権と私権の両側面からスポーツ基本法の立法を行う。
これまでの日本のスポーツ振興法のように、
行政によるアマチュアスポーツの振興を中心にだけ
立法を考えるのではなく、プロスポーツなどスポーツの経済的活動、
スポーツ連盟、スポーツ非営利社団、スポーツ会社などといった
スポーツ団体組織の法的基盤を定めるなど、
社会的経済的に多様な側面からスポーツ法を立法する必要。

行政によるスポーツの助成を単に定めるのではなく、
自由や平等、安全、公正などに基づいて、
行政によるスポーツの規制や人権の保護についても
積極的に定める必要。

第2に、日本のスポーツ振興法は、教育関係法として位置付いてきたが、
スポーツに関する総合的体系的な立法と施策の展開を
実施するためには、スポーツ基本法を制定し、
ひとつの独立した特殊法として認めていく必要。
スポーツを総合的に規律していくためには、
専門の主務官庁によって、政策と立法の整備を進める必要。

第3に、フランスでは、スポーツの振興の責任は、
行政とスポーツ運動組織の共同責任であると考えられている。
スポーツ基本法は、単にスポーツ行政とその施策を定めるものではなく、
スポーツ団体組織の法的地位を明白に定め、
両者のパートナーシップを定める必要。

◆斉藤健司

筑波大学大学院人間総合科学研究科・体育科学専攻・准教授、
日本スポーツ法学会理事、日本体育・スポーツ政策学会理事、
著書「フランススポーツ基本法の形成」成文堂、
共著「スポーツ法学入門」体育施設出版、
「導入対話によるスポーツ法学」不磨書房、
「スポーツ政策の現代的課題」日本評論社など。

http://www.ssf.or.jp/sfen/sports/sports_vol2-1.html

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