(2010年5月4日 読売新聞)
「その瞬間は記憶がなく、気づいたら病院でした」
東海地方の女性(24)は、自宅2階のベランダから飛び降り、
全治3か月の打撲傷を負った。
気分の落ち込みが続き、精神科を受診したのは、19歳の時。
抑うつ状態と診断、抗不安薬と睡眠薬を飲んだが、改善しない。
抗うつ薬が追加され、他の薬の数も増えていった。
生理が止まり、乳汁が出た。
衝動的になり、自宅で物を投げるなど暴れた。
幻聴や被害妄想も表れた。
パーソナリティー障害、不安障害、統合失調症……。
病名が次々と増え、入退院を繰り返した。
「死にたい」が口癖に、ベランダから飛び降りた頃は、
1日20種類前後の薬を飲んでいた。
抗うつ薬の使用説明書には、「24歳以下の患者で、
自殺念慮、自殺企図のリスクが増加するとの報告がある」
女性は、「医師から説明を受けたことはない」と振り返る。
女性は、医療機関を替え、薬を減らして回復。
ごく少量の抗不安薬と漢方薬の服用で、元気に暮らす。
主治医の牛久東洋医学クリニック(茨城県牛久市)院長、
内海聡さんは、「最初の抑うつ状態は、家庭内の不和が原因。
そこに全く手をつけず、過剰な投薬で、
様々な精神症状を生み出した医師の責任は重い」
自殺者は、昨年も3万人を超えた。
亡くなる1年以内に、精神科を訪れた自殺者は、
調査対象の半数に上る。
早めに精神科を受診し、適切な治療で、死を思いとどまる人も
少なくないが、必ず救われるとは言えないのが現状。
治療の不適切さも。
全国自死遺族連絡会が、会員約1000人に行った調査では、
最も衝動性が高い「自宅からの飛び降り」で死亡した72人は、
全員が精神科に通院中、1日15-20錠前後の薬を処方。
同会の田中幸子さん(61)も5年前、薬の怖さを実感。
警察官の長男が過労の果てに自殺し、
「眠ったら息子に悪い」と、葬儀後も自分を責めて不眠に。
精神科を受診し、睡眠薬を処方。
「寝ない!」と抵抗する心身を、睡眠薬でねじ伏せようとした。
すると、眠くなる前に感情が高ぶり、記憶が途切れた。
後から聞くと、大きなソファを放り投げてしまっていた。
内海さんによると、睡眠薬で酒酔いに似た状態になり、
感情が抑え切れず、爆発してしまう人も。
「不眠の原因を探り、癒やす治療をしなければ、
睡眠薬ですら、思わぬ行動の引き金になる」と警告。
http://www.m3.com/news/GENERAL/2010/5/6/119838/
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