(毎日 4月27日)
才能を持った児童・生徒を見いだして開花させる「才能教育」。
理科や数学に特異な能力を持った子供は少なくないが、
日本の教育制度では、才能を十分に伸ばす環境は、
音楽やスポーツほどには整っていない。
こうした現状を打開しようと、理数系の才能教育の受け皿が増えている。
◆「一流」に触れる
「君たちは、知識は持っている。
でも、それをつなぐ知恵はない。
たくさん経験し議論することで、知恵を身に着け、
新しいことに挑戦してほしい」
市立横浜サイエンスフロンティア高校(佐藤春夫校長)のラウンジ、
入学したばかりの1年生20人に、
常任スーパーアドバイザーの和田昭允・東大名誉教授(80)。
同高は毎週1回、和田さんと生徒がお菓子をつまみながら、
科学の話題を約1時間、自由に議論する場を設けている。
和田さんは、生命現象を物理学的に解明する生物物理学分野で
世界的に有名、生徒にとっては、一流の科学者と
身近に接する貴重な機会。
この日は、光の性質を変えられる偏光板を使うと、
物の色が変わって見えることを実験。
話題は、偏光板の仕組みから、科学者の倫理に広がった。
同高は、09年開校。
「若いうちに、本物に触れ驚きと感動を持ってもらおう」、
天体望遠鏡や電子顕微鏡、DNA解読装置、無菌実験室など
大学並みの設備を備える。
栗原峰夫副校長が、「科学技術の分野に、どんどん人材を送り出したい」、
「未来の科学者」を育てる教育が売り。
初年度の募集では、第1志望の生徒が受験する「前期」の定員71人に
370人が志願、競争率は5倍を超えた。
理数科目の授業が多いのに加え、1年では研究の基礎的な手法や
発表の技術を学び、2年では専門的なテーマで個人研究に取り組む。
「動物細胞の培養技術の習得とカーボンナノチューブの影響」、
「化学反応とエネルギー」といった具合。
英語の授業も、「海外で自分の研究内容を英語で発表し、
質問に答えられる力をつける」(英語を教える植草透公教諭)。
最終的には科学論文を書いたり、科学に関する長文を
読みこなす能力を鍛える。
「科学技術顧問」を引き受けた科学者や企業が、
講演会や研究室訪問、実験指導などを通して生徒の意欲に応え、
同高の理数教育を支援。
宮崎健校長代理は、「自分も科学技術の道に進みたい、
という意欲を高める機会になっている」
才能教育は、米国では定着。
先進的なジョージア州では、小学~高校生の約9%が「才能児」と認定、
個性に合った教育プログラムに州が財政的な支援。
日本では、必要性が指摘されながら、
長い間、手がつけられてこなかった。
科学技術振興機構は、理数系才能教育の充実を求める報告書を作った。
「日本の学校は、標準的な教育課程をベースとし、
高い才能を持った生徒の意欲に応えられない」
最先端の科学技術や研究者と触れ合う機会を提供、
各地に才能を伸ばす科学技術教育中心の学校を整備するよう求めている。
科学の才能を世界で競い合う物理、数学、化学などの「科学五輪」は、
才能教育の一つの受け皿。
私立栄光学園高校(鎌倉市)3年の遠藤健一さん(17)は、
東京で7月に開かれる「第42回国際化学オリンピック」の
日本代表4人に選ばれた。
2度目の出場、昨年のイギリス大会では、
成績上位者10%に贈られる金メダルを獲得。
小学生のころ、原子を組み合わせてさまざまな物質を作る
パソコンゲームに夢中。
5年生の時、両親に買ってもらった大人向けの化学書を読み、
のめりこんだ。
クラスの副担任で、遠藤さんに化学を教える高田暁教諭は、
「学校として、特別なことはしていない」
同高が奨励する科学五輪への出場が、遠藤さんの才能を開花。
大会での出題は、日本の高校の学習指導要領を超え、
戦うには大学レベルの知識や技能が必要。
遠藤さんは、「なぜそうなるのか、という原理が分かって面白い」
日本化学会が指定した大学教授による
マンツーマンの実験指導も刺激。
将来の夢は化学者だが、遠藤さんは「飛び級」などを利用して
急いで学ぶことには消極的。
「化学五輪で力は伸ばせるし、友達と遊んだり、
今しかできないことを大切にしたい」
高田教諭も、「化学を勉強するのではなく、楽しんでいる。
めったに出ない才能だ」と評価、遠藤さんを支える。
http://mainichi.jp/select/science/archive/news/2010/04/27/20100427ddm016040057000c.html
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