2010年7月31日土曜日

フロンティア:世界を変える研究者/7 愛媛大・遠藤弥重太さん

(毎日 7月21日)

「私たちが泣いたり笑ったり、恋をしたりするのも、
すべてたんぱく質の仕業」
遠藤さんは、講義で学生にそう説明する。

生物の体を構成するたんぱく質。
たんぱく質を作っているのは、細胞内の小器官リボソームだ。
日米欧の国際チームによるヒトゲノム(全遺伝情報)解読に、
世界の耳目が集まっていた90年代後半。

進ちょく状況を耳にするたび、「解読しても、スペル(つづり)が分かるだけ。
その意味を理解するためには、遺伝子からたんぱく質を
人工的に合成する装置がいる」と自らを鼓舞。

遠藤さんによる世界初の「無細胞たんぱく質合成装置」は、
03年完成。
同年のヒトゲノム解読完了後間もなくだった。
一晩で384種類ものたんぱく質を、細胞なしで合成できるこの装置は、
ポストゲノムの中核であるたんぱく質研究を大きく進めた。

「研究者になりたい」と、地元の大学の栄養学科に進み、
たんぱく質合成というテーマに出合った。
「たんぱく質合成の仕組みは複雑で、試験管内で再現することは不可能」
が当時の常識。

「やるなら難題に挑戦しよう」と考えた。
大腸菌などの生きた細胞に遺伝子を導入し、
たんぱく質を作らせる方法(組み換え法)が開発、
限られた種類のたんぱく質しか合成できず、その量も少なかった。

細胞をすりつぶした液に遺伝子を入れる方法(無細胞法)は、
合成を担うリボソームが壊れて、反応が1時間ほどで止まってしまう。
「どうすれば反応が続くのか」

研究するうち、すべての生物はリボソームを破壊する
「自殺酵素」を持っていることを突き止めた。

反応が続かないのは、酵素が自らのリボソームを破壊してしまうから。
この酵素を除けば、持続するはずだ。

愛媛大に移った92年、小麦を材料に実験を始めた。
小麦の自殺酵素は、全体の99%を占める胚乳だけに存在。
1%の胚芽を分ければうまくいくと考えたが、薬品ではうまくいかない。

試行錯誤の末、胚芽についた小麦粉(胚乳)を
水で洗い流す方法にたどり着いた。

98年、取り出した胚芽の抽出液で、
反応を2週間持続させることに成功。
「『遠藤は思いつきで偶然うまくいった』という人もいるが、
誰もやらない研究を20年以上続けてきた。
無細胞法しか成功する方法はない、と確信していた」

実験は副産物も生んだ。
胚乳を使った焼酎。
前学長が名付けた銘柄は、「自由人」。
独自の発想で道を開いてきた遠藤さんらしい味がする。
==============
◇えんどう・やえた

46年徳島県生まれ。75年徳島大大学院博士課程修了。
山梨医大助教授などを経て、92年愛媛大工学部教授。
03年より現職。

http://mainichi.jp/select/science/archive/news/2010/07/20/20100720ddm016040119000c.html

0 件のコメント: