2010年7月26日月曜日

理科の達人先生(上)教材を工夫 驚きの実験

(読売 7月14日)

自分たちで組み立てた燃料電池を使った回路から、
電子メロディーが流れた。
「やったー。鳴った」、「すごい、すごい」と歓声。

新宿区立新宿中学校の理科室で行われた3年生の理科の授業。
この日のテーマは、「エネルギー変換」。
生徒たちは、水に電気を流すと水素と酸素が発生する
電気分解を見た後、その逆の反応である燃料電池の仕組みを学び、
実際に作ってみた。

材料は、注射器2本、100円ショップで買ったプラスチック容器、
それに特殊な電極。
これらを組み合わせ、水酸化ナトリウム溶液と水素と酸素を
注入すると、燃料電池が完成する。
原理は分かっていても、単純な装置から電気が生まれるのには驚かされる。

優れた中学理科教師を表彰する「理科の達人先生」で、
宇宙航空研究開発機構理事長賞に輝いた同中の小林輝明教諭(46)。

1996年、燃料電池の教材を開発し、
今ではすっかりおなじみの燃料電池教材の原型となった。
当時、教科書に「燃料電池」という言葉は載っていたが、
燃料電池自動車の商品化などはまだ先のこと。

環境問題といえば、公害など負の遺産の話がほとんど。
「暗い気持ちになる話だけでなく、科学技術が世界を変えることを
伝えたかった」
この教材開発で翌年、東レ理科教育賞を受けた。

2007年、宇宙機構の招きで米航空宇宙局(NASA)へ行き、
実験を披露したことも。
本業の傍ら、昨年から通う東京農大大学院では、
新たな視点の環境教育研究に取り組んでいる。

◆理科の達人先生

理科教育に優れた業績を上げた中学校教師を表彰するもの。
NPO法人ネットジャーナリスト協会が、今年初めて実施。

◇体系立て効果的学習計画

「産業革命」、「現代社会」、「環境問題」、「エネルギー資源」、
「最新科学技術」といったキーワードが矢印で結ばれた図。
環境エネルギー問題に関係する学習内容のつながりを示したもの。
教科書の内容を、単に知識として教えるのでなく、
社会や科学とどう関係しているのか、教科全体の中では、
どう関連づけると良いのか。

理科の達人先生表彰で、初等中等教育局長賞を受賞した
練馬区立豊玉中学校の高畠勇二校長(57)は、
学習内容を体系的に整理し、効果的な学習計画作りに
役立てることに取り組んできた。

学習計画では、キーワードをさらに細かく具体的に分ける。
エネルギー資源は、種類や特性、発電の仕組みや特徴、
化石燃料と地球温暖化など、10項目以上。

この項目を学習計画にちりばめ、歴史や実情を踏まえた
全体像を理解させたいと願う。

「未知の課題で頑張る原動力となる成功体験は、
綿密な事前準備なしでは得られない」

◇「できる教員」地道に養成

国の科学技術の基盤を作るため、達人と呼ばれる理科教員の養成に
心を砕くのは、理科の達人先生で最高賞の文部科学大臣賞を
受賞した、葛飾区立亀有中学校の瀬田栄司校長(59)。

08年から、科学技術振興機構の理数系教員養成拠点構築事業で
推進委員を務め、教師の質向上に協力してきた。
いわゆる「授業のできる」教師は、各地で若手を教えるなど、
指導的役割を果たすべきだと考える。
「人材育成は、短期的に成果が出にくいので、地道にやっていくしかない」

教員育成の効率化を図るため、各地域での取り組みを
ネットワーク化することも重要。

「科学は面白い、大切だ」という認識を、子どもたちだけでなく、
大人へも広げていく必要があると考え、学校や大学のほか、
博物館や企業とも連携することも模索。

教頭になった1994年以降、授業をすることはなくなったが、
2007、08年には全国中学校理科教育研究会長を務めるなど、
理科教育全体を考える立場で活躍する。

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20100714-OYT8T00276.htm

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