2008年10月11日土曜日

ウイルス使わず万能細胞 がん化恐れ少なく安全に

(共同通信社 2008年10月10日)

さまざまな組織に成長する人工多能性幹細胞(iPS細胞)を、
がん化の恐れがあるウイルスを全く使わずにつくることに、
京都大の山中伸弥教授らのチームが世界で初めてマウスで成功、
米科学誌サイエンス電子版に発表。

「プラスミド」と呼ばれる、小さな環状の遺伝子を細胞内に入れる手法。
山中教授が当初開発したレトロウイルスを使う遺伝子操作手法と異なり、
もとの細胞の染色体に変化を与えないのが特徴。
がん化の恐れが少ない安全な万能細胞をつくるための重要な一歩。

山中教授は、「本格的な再生医療につながる新世代のiPS細胞。
人の細胞でも試しており、近く成功すると思う」

iPS細胞は、創薬や再生医療に役立つ一方、
ウイルスを使う従来手法では、遺伝子改変に伴うがん化の危険が否定できない。
患者への移植など、本格応用には改良が必要。

山中教授らは、染色体に影響を与えず、細胞質にとどまって
必要なタンパク質などをつくるプラスミドに着目。
マウスの子どもの皮膚細胞に、4つの遺伝子を組み込んだ
2種類のプラスミドを入れることで、iPS細胞に変化させるのに成功。

プラスミドは数日で細胞内から消え、染色体に余分な遺伝子が
入り込んでいないのも確認。
作製効率は、レトロウイルスを使う場合の100分の1以下と低い。

山中教授は、「改良により、効率はもっと高くなるだろう。
実験室での扱いが難しいウイルスを使わずに済むメリットも大きい」

▽プラスミド

大腸菌や酵母の細胞質などに存在し、染色体とは独立して増殖、
機能する小さな遺伝子の集まり。
2本のDNAが環状につながった構造が一般的。
医薬品産業やバイオ研究の分野では、標的となる遺伝子を細胞に
組み込むための運び屋(ベクター)として広く用いられる。
大腸菌などを使って、安全かつ大量につくることができ、
冷凍すれば長期保存もできる。

▽レトロウイルス

RNAに遺伝情報を持つウイルス。
感染した細胞の染色体にウイルス由来の遺伝子を挿入し、
細胞がタンパク質を合成する機能を借りて増殖。
エイズウイルスなど。
遺伝子操作では、細胞に効率良く遺伝子を導入するための
運び屋(ベクター)として有用だが、予期せぬ突然変異が起きる恐れがあり、
一定の封じ込め機能を備えた設備での扱いが必要。

▽万能細胞と再生医療

高い分化能力を持つ万能細胞からつくった臓器や組織を移植すれば、
現在は有効な手だてがない難病患者の治療につながると期待。
神経組織を脊髄損傷やパーキンソン病患者に、
インスリン分泌細胞を糖尿病患者に移植するなどが一例。
拒絶反応を回避する必要もあり、免疫適合した胚性幹細胞(ES細胞)や、
患者自身の人工多能性幹細胞(iPS細胞)が治療用細胞として有望視。

【解説】傷んだ臓器を患者自身の万能細胞で修復する?

移植時の拒絶反応が起きない夢の再生医療の実現には、
がん化の心配をなくすなど安全性向上が不可欠。

京都大の山中伸弥教授らが今回狙ったのは、
人工多能性幹細胞(iPS細胞)の遺伝子操作に使う"道具"の改良。
当初は、細胞の染色体に遺伝子を挿入するウイルスを使ったが、
染色体とは独立して働くプラスミドを使うことで、染色体への影響を少なくした。

今回はマウスで、人での成功が次の課題。
狙った組織に分化誘導できるか検証も必要。
国立成育医療センター研究所の阿久津英憲室長は、
「二歩前進と言っていい。染色体への影響が少ないため、
品質が良く扱いやすい万能細胞ができる可能性がある」と評価。

米ハーバード大は、別の種類のウイルスで染色体への影響を減らす手法を開発。
操作に用いる遺伝子の数も、当初の4つから3つ以下に減らす研究が盛ん。
専門家は、「こうした工夫の積み重ねで、将来は臨床応用レベルの
安全性が実現しそうだ」と期待。

東京大の中内啓光教授(幹細胞生物学)の話

iPS細胞が抱えるいくつかの課題のうち、安全性の問題は非常に大きく、
今回の成果でかなりの部分が解決された。
実用化に向けて大きく前進した。
ここまで数年はかかると予想していたが、昨年11月に
人のiPS細胞作製が発表されてから1年もたっておらず、
短期間にすごいスピードで着実に進歩している。

http://www.m3.com/news/news.jsp?sourceType=GENERAL&categoryId=&articleId=81180

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