2008年10月11日土曜日

つながる生命(上)里山 人の手で豊かに

(読売 10月7日)

さまざまな生命がつながり合う自然の営み。
その保全を目指す生物多様性条約の第10回締約国会議(COP10)が、
2010年10月に名古屋市で開かれる。
会議へ向け、身近な自然と人々の暮らしを見つめてみたい。

琵琶湖西岸の滋賀県高島市。
湖畔の針江地区に住む主婦、前田正子さん(65)が
足元の池にナスの切れ端を放り込んだ。
魚影が動く。待ちかまえていたのは6匹のコイだった。
「カレーを作った鍋なら、2日沈めればきれいさっぱり」。
前田さんは、「わき水は夏は冷たく、冬は温かい」と誇らしげ。

170世帯中107世帯に、「川端」と呼ばれる昔ながらの水場が残り、
安曇川から引き込んだ水路が、川端をめぐり網の目のように流れる。
野菜を洗ったり、料理に使ったり。
川端の井戸でくみ出す地下水と水路の水を、住民は用途に応じて使い分ける。

地下水の水源は、美しいブナ林と棚田が残る比良山系。
川端のわき水を集め、水路は琵琶湖に注ぐ針江大川へ。
人里を貫く川なのに、絶滅危惧種のウナギに似た魚「スナヤツメ」など
28種の魚が生息。

取材に訪れた9月中旬、水面には清流に咲く「バイカモ」の白い花が揺れていた。
兵庫県川西市。
炭焼き名人の今西勝さん(70)が管理する標高300メートルの山肌に、
美しいモザイク模様が広がっていた。

伐採は、幹の直径が約10センチに成長する8~10年目以降。
根元から1~2メートル上をチェーンソーで切るため、切り株だけは太くなる。
そこから出た新芽は、深く、広く張り出した根が吸い上げる
栄養を一身に受け、力強く育つ。

兵庫県立大の服部保教授は、異なる成長度のクヌギ林が混在する
今西さんの森を、「日本一の里山」と呼ぶ。
クヌギが適度に伐採された森の植物の種類は、放置された森の2・5倍。
「クヌギの成長に応じ、異なる植物相が現れ、生き物を呼び寄せる。
人の管理があってこそ、多様な生態系がある」

針江の人たちは、魚の遡上が妨げられないよう、年4回、水路の水草を刈る。
琵琶湖のヨシ刈りも毎冬の恒例行事。
地元で米を作る石津文雄さん(60)は、1回40トンとれる水草と、
もみ殻や米ぬかを混ぜ、有機肥料として田にまく。
水を浄化し、水生生物を育むヨシの刈り取りは、その新芽の成長を促す。

4年前、針江の四季を映したNHKのドキュメンタリーが
国際コンクールを総なめにし、20か国で放映。
最近は韓国、豪州などからも見学者が訪れる。

里山は、人と自然が共生するモデル――。
日本政府は「SATOYAMA」を世界に発信する計画だ。

http://www.yomiuri.co.jp/eco/kankyo/20081009-OYT8T00346.htm

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