2008年11月13日木曜日

授業を変える(2)「仮想教室」討論を熱く

(読売 11月5日)

豊富な機能を持つ電脳空間が学習意欲を刺激する。

「リポート提出はムードルに」、「先週の学習時間をムードルに報告して」
三重大学(津市)の生物資源学部で、「環境情報学」の授業中、
森尾吉成准教授(37)は何度も「ムードル」という言葉を口にした。
1年生約50人がパソコンの前にいる。

「ムードル」とは、同大が学内ウェブサイト上で
授業支援用に開いた“仮想教室”。
リポート提出コーナーや学生同士が24時間書き込める“談話室”、
授業用の資料の閲覧室や、テスト室も設けることができる。

授業ごとに作り換えができるため、どんな機能を持たせるかは担当教員次第。
授業中の小テストの結果を、その場で書き込ませて集計すれば、
瞬時に理解度を把握し、講義をやり直すことも可能。

「自分で学ばない人は置いていく」と言葉をかけるなど、
授業中の緊張感を保つ工夫は欠かせないが、
「提出物の管理などの手間が省け、学生の表情や理解度を見ることに集中できる」
森尾さんは、ムードルの威力を実感している。

三重大で初めてムードルを使い始めたのは、
奥村晴彦学長補佐(57)(情報教育)。
4年前の着任時に見た授業風景が、きっかけに。

自己紹介させると、名前しか言えない学生がほとんど。
私語はないが、議論も弾まない。
「人と交われないのか」と疑念を持ちながら学生のパソコンをのぞき込んだ時、
会員交流サイトの大手「ミクシィ」の画面が目に飛び込んできた。
パソコンを通しての対話なら、授業への積極参加を促せるかも――。

早速、欧米やオーストラリアで広がっていたムードルを個人的に使い始めた。
リポート提出箱を設けたところ、学生が送信記録を確認できるため、
「出した」、「いや受け取っていない」といったつまらないトラブルがなくなった。
電子掲示板の設置で、課題や予習復習の指示も明確にできる。
小テストは、学生一人ひとりのつまずきを確認するのに役立つ。

学生同士の関係も、大きく変えることになった。
学習内容についての討論コーナーでは、夜中まで書き込みが続くことがある。
ウェブ上で知り合えたことで表情が変わり、授業中の議論が活発に。

評判は、大学の外まで広がり、2年前から大学として普及を図ることに。
現在、ムードルを使う授業は約700。大学の授業全体の2割強。
昨年度の学生による授業評価では、20項目中19項目で
ムードルを使用する授業の方が高い点数を得た。
中でも「新しい知識・考え方・技術が獲得できた」、
「知的刺激が与えられた」など、学習意欲につながる項目で差が出た。

奥村さんは、「全教員に義務化は難しい」と打ち明ける。
ムードルの更新を怠る教員も目につくからだ。
「先生によって差がある。使いやすいムードルは、勉強する気にさせる」
と生物資源学部の1年生。
小手先の工夫では、学生を刺激することはできない。

◆ムードル(Moodle)

オーストラリアで開発された無料の授業支援ソフト。
会員同士で交流するミクシィと異なり、教員が管理することを想定して作られた、
学生とのコミュニケーションシステム。
国内では、名古屋工業大学や鈴鹿工業高等専門学校などで導入。

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20081105-OYT8T00201.htm

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