2008年11月15日土曜日

特集:働く女性(その2止) 働く女性の身体と心を考える

(毎日 11月9日)

中林座長
次は「代替要員の確保方法」について。
学校現場は、制度が非常によくできている。
校長先生が、「診断書に1カ月と書いてくれないと代替の教員が雇えない」と言う。
ところが書いてしまうと、1週間後に流産して、すぐに働きたくても
代替の人が来ていて働けないと文句を言う人もいる。

鈴木委員
育児・介護休業を取った場合、届け出た休業期間より早く戻るのは
認められていない。

中林座長
だから我々は、中途復帰はできないと相手に念押し。
実態に見合わない話だが、代替要員をどうやってうまく確保したらいいのか。

鈴木委員
一般の企業は、派遣社員を頼んでいる場合が多い。
初めから、育児休業の代替要員で期間限定と言って来てもらう。

内山委員
ジョブローテーションというのは、職場でのやりくりになるのか?

中林座長
そうでしょうね。

小畑委員
ある製造業の職場では、製造ラインの特定の部分で作業するのではなく、
いろいろなところにローテーションで入って作業できる「多能工」を育成し、
作業負担の軽減と業務のカバー。

内山委員
いろいろな作業に対応できるなら、過重労働の対応にもつながる。

小畑委員
妊娠中は立ち作業だけではなく、座れる作業を組み合わせるなど、
作業態勢も考える必要。

鈴木委員
銀行などは、不正防止のためもあるが、業務を短期間に交代。
誰かが休んでも、他の人に任せられる。
ジョブローテーションというのは、結構重要。

内山委員
企業の現状を見ると、代替要員の確保以前に、
まずは同僚がお互いにカバーし合う職場でのやりくり。
問題は、過重労働にならないような配慮。
やりくりは結局、上司や同僚による残業になる。
特に中小企業は、無駄な仕事をやめるため業務の見直しを行い、
「無駄取り」といって、どれをやめてどれをやるか、社内で検討することも大事。
そうしないと、誰かが過重労働に。

鈴木委員
育児休業中は、企業は給料を払わないところが多い。
社会保険料も労使とも免除に。
その分、休んだ人の給料で代替要員として派遣社員を雇えばいい。
雇う費用は、社会保険料の免除分を足しても、
休んだ人の給料を少し上回る程度。

北浦委員
代替要員を雇っても、必ず周りに業務のしわ寄せはいく。
代替要員が、休んだ人の仕事を完全にカバーできるわけではない。
できない部分は、上司や同僚に回る。
休んだ人の代替ではなく、その職場単位でカバーするために
代替要員を考えるというような発想でないと、過重労働を防ぐのは難しい。

中林座長
育児は数年にわたるので、やはりワークシェアリング。
当院も、子育て中の女性医師が2人で1人分働く曜日ごとの交代制を取る。

小畑委員
私事で恐縮ですが、私は20代後半から約10年間に産業医をしながら
4人の子を出産。育児休業は、ほとんど取っていない。
長女の小学校入学を機に、第3子出産前に実家の裏に家を建てて引っ越した。
両親におんぶに抱っこの毎日だが、4人生まれるとフルタイムはきつく、
第4子出産の1年後フリーに。
30代前半までは夫に合わせて勤務先を変わったり、
留学にもついていったが、今は夫が私に合わせて遠距離通勤。

鈴木委員
いろいろな働き方を考えるべき。

長井委員
職種によって、代替要員がどういう時に本当に必要で、
カバーし切れないのはどんな時か、現実の事例がわかると、
働き方を考える上でイメージがわく。

鈴木委員
専門的な職能で分かれている業務だと、完全な代替は難しい。

中林座長
「制度に関する研修」はどうか?

大久保委員
管理職の研修が一番大事。

中林座長
管理職研修は、まだまだ不十分。

鈴木委員
新入社員研修の時、就業規則について詳しく説明するのも、とても大事。

北浦委員
管理職研修をやっていなかったり、効果がないのは、
そもそも該当者がいない場合が多い。
該当者が出てきた時に、管理職が自分のこととして人事部に聞きに行く。
そういう個別的な対応も、推奨した方が有効。

中林座長
「申請から実施までの流れ」に関して、我々産科医は、
赤ちゃんの心拍が見える妊娠7~8週以降、
安定して流産の可能性が少なくなったいわゆる3カ月に入ってから、
会社に言ったらどうですかと女性に話している。

百枝委員
予防的な観点からは、妊娠がわかった時点で会社に言っておかないと、
切迫流産に対する処置が遅れるという恐れ。
そこは微妙かなと思う。

中林座長
女性の考え方で違う、と。

百枝委員
女性の価値観や考え方によって、ケース・バイ・ケース。
産科の外来では、患者さんの半数が仕事を持ち、
体調が悪くても休めない人が多く、月に2、3人は医学的に問題のある人がいる。
妊娠・出産期の業務軽減が、キャリア形成にマイナスだと考える女性も。
キャリア形成に響かないようにすることが、企業に求められている。

中林座長
次に「男性社員育児参加のための取り組み」。
男性の育児休業取得率10%という国の目標があるが、
企業の風土が変わる必要。
男性は残業ばかり、女性は家事も育児も、となると女性の負担に。
その上介護まで加わると、仕事との両立はとても無理。

鈴木委員
育児休業は、男女五分五分で取ってほしい。
法律で、子供ができたら男性も、女性も半分取るべきだと決めてくれたら一番いい。
企業というより、国として男女五分五分の責任を明確にする。

北浦委員
その条件として、女性の就業率がもっと上がるようにならないといけない。
もう一つ問題が、大企業に「なぜ男性が育児休業を取らないんですか」と聞くと、
「うちは必要がないから」と言われてしまう。
奥さんが専業主婦だから必要ない、と。
この意識も、変えていかないといけない。

鈴木委員
現在育児・介護休業法を変える議論をしていて、女性の産後休業の時、
父親である男性も一緒に育児休業を取ることを促進する話し合いがされる。

北浦委員
労使協定で取れるようにしても、たぶん男性はいやがって取らない傾向が
非常に強いんじゃないか。

中林座長
今の日本は、残業で成立。
残業できないで帰宅する人は要らないよ、と思うこと自体がおかしい。
社会が成熟して、男性が家事、育児をするのも仕事だと、
皆が考えるようになっていかないと。
そういう風土づくりは時間がかかるが、
こういう委員会で意見を言っていくことが必要。

「妊娠中の健康管理」については、妊娠中に2~3割ぐらいの人は、
むくみなどのマイナートラブルに始まりいろいろなトラブルがある。
その場合は、気兼ねなく休むのが大事。

内山委員
「他の企業へのメッセージ」では、母性健康管理をはじめとした取り組みが
社内の業務効率を見直すきっかけになったとか、
さらに広いライフステージへの支援につながっているという点が重要。
女性の働き方を考えることが、全体の働き方を考えることになる。

大久保委員
母性健康管理も大事だが、それをやることによって
働く人すべての環境がよくなるし、雰囲気もよくなるし、
結局それは企業の前進につながる。

中林座長
その点を、これからも大いに議論しましょう。
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◆母性健康管理指導事項連絡カード
診断書に代わって、妊産婦の症状ごとに求められる職場での対応と
その期間を、事業主に示す文書。
つわりの症状が著しい場合は勤務時間の短縮、
胎児の発育の軽い遅れには作業の制限、重症の高血圧には休業など、
事業主が取るべき対応の目安が書かれ、指導項目に医師が○を付ける。
発行の料金は、医療機関によって違い、
無料や診断書と同額の場合もあるが、診断書より安価な場合が多い。

医師の指導内容を、事業主に的確に伝達するため、
医療機関、女性労働者と事業主の連携ツールとして作成。
改正男女雇用機会均等法を受けて、事業主が取るべき母性健康管理の
措置を示した97年の労働省(当時)の指針で様式が定められている。
02年度から母子健康手帳の巻末に収録、A4判に拡大して使う。
インターネットからダウンロードもできる。

認知度がまだ低く、ここ1、2年の女性労働協会の調査では、
カードの存在を知っている女性労働者は30%に過ぎない。
http://www2.mhlw.go.jp/topics/seido/josei/hourei/980801-30w.doc
http://www.jaaww.or.jp/about/pdf/document_pdf/card.pdf
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◇長井聡里(ながい・さとり)
すてっぷ産業医事務所長。大阪労災病院産婦人科、
松下電工本社健康管理室長、産業医大産業医実務研修センター講師などを経て、
08年産業医として独立。
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◇小畑泰子(おばた・やすこ)
おばたやすこ労働衛生コンサルタント事務所長。
三菱重工業下関造船所産業医、産業医大産業医実務研修センター助手を経て、
04年7月産業医として独立。
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◇百枝幹雄(ももえだ・みきお)
東京大医学部産科婦人科学教室講師。
焼津市立総合病院、長野赤十字病院などを経て
89年東京大病院産婦人科助手。
92~94年米国立衛生研究所に留学。04年から現職。

http://mainichi.jp/life/health/news/20081109ddm010040039000c.html

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