(読売 11月7日)
昇給につながる教員評価が、授業の工夫を促す。
高知工科大学の名物教員2人が10月末、授業をしていた。
「流体力学」の授業は、蝶野成臣教授(52)。
「プールに放り込まれたノミの気持ちになって」。
得意のたとえ話に、約70人の学生が笑い声をあげる。
人間が受ける空気や水の抵抗を、小さな模型で再現するには、
どんな条件付けが必要かを考えさせる。
専門用語を使わず、身近な例で説明するため、
綿密な授業台本も作っている。
「専門教育ガイダンス」の授業は、篠森敬三教授(45)。
1年生約100人に、「学べば必ず未来がある」、
「未来のための勉強だ」と繰り返す。
一部上場企業で、大きなプロジェクトを任されている卒業生たちを引き合いに、
目の前の学びがどう社会で役立つかを具体的に示す。
話に吸い込まれるように、学生は熱心にノートを取っていた。
2人には、学生の授業評価で高く評価され、
大学に表彰されたという共通点がある。
2人の原動力となったのは、同大独自の教員評価。
導入は5年前。
発案者の岡村甫前学長(70)は、「学生を育てるには、成果を出す教員を
客観的に評価、支援する制度が不可欠と考えた」
教育・研究・地域貢献などの分野ごとに、質と量から得点を定め、
独特の計算方法で評価をはじき出す。
授業を一つ担当すると、100点。
そこに、科目別の点数、単位数、学生の授業評価の平均点などの要素が加わる。
研究面では、ネイチャーなど著名な英文雑誌に論文を発表すると300点、
国内誌なら部数によって100~200点、
地域貢献にかかわる委員を務めると5~20点。
すべて大学のホームページで公開。
3年平均で、教授は1100点、准教授は900点取らなければならない。
平均を100点上回ると50万円昇給で、100点下回ると50万円の降給。
大半の教員は5年の任期制で、5年連続して下回ると契約を更新できない仕組み。
すでに教授職で年250万円の差が生まれたが、教員の大半は支持。
点数と数式が明示され、上司との相性を気にする必要がない上、
教育・研究・地域貢献のどこに軸足を置くかは自分次第。
「結果的には、自然に教育力が上がった」と篠森さんは明かす。
学生が力をつけないまま進級すると、関連科目の担当者も困り、
「どんな授業をしていたのか」と教員会議で問題にする。
苦情を受けた教員は授業を改善するか、担当をやめるかの選択を迫られる。
担当が不在になった授業は、教員が奪い合う。
県などの支援を受け、私立大として開学した同大は、
来年度から公立大学法人によって経営。
開学12年目で力をつけた大学は、新たな一歩を踏み出そうとしている。
◆公立大学法人
地域活性化などを目指し、5年前にできた地方独立行政法人法で始まった制度。
自治体の裁量で、弾力的な組織運営や教育、研究を展開できる。
全国で37大学が公立大学法人化しているが、
私大が公立大学法人化されるのは異例。
国から同大に出ている助成金の2倍の交付税措置が受けられ、
年間約124万円の授業料は半額以下に抑えられる見込み。
http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20081107-OYT8T00215.htm
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