2008年12月15日月曜日

30年使用可能な人工関節開発へ ナカシマメディカルと阪大など16機関

(じほう 2008年12月8日)

現在の人工関節よりも耐用年数が長く、生体融合性に優れ、
患者1人1人の関節にフィットした「パーソナライズド人工関節」の
提供に向けて、産学連携の研究が動き出した。

革新的技術の開発を目指し、政府が今年度創設した
「先端医療開発特区」(スーパー特区)の1つに先月、
ナカシマメディカルと大阪大、岡山大、京都大、名古屋大、
産業技術総合研究所(産総研)など16機関42人で取り組む
人工関節のテーマが採択。

2012年度までに、基盤技術の開発、生産技術、臨床研究などを行い、
30年以上の使用に耐え得る人工関節を世に送り出したい考え。

65歳以上高齢者の約5人に1人が、運動器障害を持つといわれる中で、
人工関節の市場は増大傾向に。
関節の悪い部分を削って取り換える治療法で用いられる
人工関節の一般的な耐用年数は約15年。

患者の多くは60歳前後で導入するため、平均寿命が延びた昨今、
より長期にわたって人工関節を使用するとすれば、
導入時期を遅らせるか、入れ替え手術を実施しなければならなくなる。
国内整形外科インプラント市場の約9割は、海外メーカー製品が独占。
シェアは10年前から大きく変わらず、輸入に頼っている。

こうした状況を、日本発の技術で解決しようという取り組みが加速。
ナカシマメディカル(ナカシマプロペラから11月に分社化)と
阪大・岡大・京大・名大・産総研など16機関のチームは共同で、
13年前から「人工関節の機能高度化研究会」を結成。
個々の患者に融合する人工関節を作成し、
耐用年数を現在の15年から30年以上に延ばす研究に取り組んできた。

しかし、研究成果の実用化をめぐり制度面の障害が存在。
基盤技術の治験や承認申請に、多くの時間がかかってしまう点。
実際、重点テーマの1つである人工関節の摩耗を防ぐ技術は、
申請から10年がたつが製造承認待ちの状態で、
昨年、一足先に欧米企業が米国市場で製品化。

政府が、再生医療医薬品・医療機器の研究開発を促進するため、
今年度創設したスーパー特区の公募がスタート。
スーパー特区は、硬直的な研究資金の弾力的な運用を認め、
厚生労働省など規制当局と開発段階から意見交換や相談を行うことで、
革新的技術の開発に弾みをつけることを目指す。
研究期間は、12年度までの5年間。

同研究会の代表者であるナカシマメディカル常務取締役の藏本孝一氏は、
スーパー特区に応募した動機について、
「優先審査といい、治験段階からの相談制度といい、
われわれの研究会が求めているものにぴったりと思った」
同研究会が中心となり9月に応募し、11月18日に採択されたことが発表。

◆5つの基盤技術で耐用年数30年以上に

人工関節には、3つの問題点が存在していると藏本氏は指摘。
<1>人工関節製品の形状の中から、患者の関節形状により近いものを
選んで使用するため、人工関節がフィットしない患者が存在
<2>骨と人工関節がなじまない
<3>人工関節の軟骨部分であるポリエチレンが徐々にすり減る-の3つ。

問題を解決するため、同チームは5つの基盤技術をもとに、
生体融合性に優れた人工関節の開発を行っている。

その1つである「ビタミンE添加UHMWPE」は、
人工関節で避けることのできなかったポリエチレンの摩耗を、
ビタミンEの抗酸化作用を利用して防ぐ技術。
京都大の富田直秀氏とナカシマメディカルで開発。

チタン合金「Ti-15Zr-4Nb-4Ta」(チタン、ジルコニウム、ニオブ、タンタル)は、
産総研の岡崎義光氏らを中心に開発している新技術。
従来の人工関節のチタン合金中には、生体への悪影響が懸念される
アルミニウムやバナジウムが含まれていたが、これを取り除こうとしている。

力学的な知見から、強力な骨が形成されるように人工関節表面の
穴の方向を制御する「異方性孔構造」技術(大阪大・中野貴由氏ら)
骨の形成速度を速めるための人工関節表面構造の処理技術
「GRAPE Technology」(岡山大・尾坂明義氏ら)も。

「Bioactive Bone Cement」と呼ばれる特殊なセメント(名古屋大・大槻主税氏ら)
の開発も行っている。
従来のセメントでは、骨と人工関節部分が5-10年でゆるんでしまっていたが、
これを強力に接着させる新技術。

◆患者にフィットした人工関節の作成技術も開発

プロジェクトは、厚生労働省などと開発段階で相談し、
優先審査制度も利用することによって、5つの基盤技術の確認申請から治験、
製造承認を早期に取得したい考え。

次の段階として、基盤技術をもとに人工関節の生産ラインの開発、
生物学的安全性の評価、機械的特性評価、臨床評価を行って、
生産システムの運用の承認をとるまで5年間のロードマップを作成。

大阪大の村瀬剛らのグループは、患者の関節形状や動きなども加味し、
患者にフィットする人工関節の作成技術を開発。
09年度中をめどに、CTなど医用画像を利用した
「パーソナライズド人工関節」作成技術の開発を目指す。

10年度以降は、開発された人工関節を効率よく製造し、
販売する体制づくりをナカシマメディカルが検討。
人工関節は、千葉大・岡山大・大阪大などの施設で臨床評価される予定。

取締役の土居憲司氏は、「時間もコストもかかるが、
患者さんのことを考えた場合、パーソナライズド人工関節の開発に
取り組むメリットは大きい」

http://www.m3.com/news/news.jsp?sourceType=GENERAL&categoryId=&articleId=84534

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