(毎日新聞社 2008年12月7日)
この秋、バナナが全国の店頭から消えた。
スーパーの開店と同時に買い占める客が殺到、
昼前には売り切れる店が相次いだ。
騒ぎは1カ月で収束したが、
納豆やココア、寒天などに減量効果があるとして品薄になったのも最近のこと。
「日本人は、ダイエットに固執して食べ物をえり好みする傾向が強い」。
◇メディアがブーム加速
今回のバナナ騒ぎを振り返ってみよう。
10月初旬、名古屋市「松坂屋ストア」。
開店と同時に、10人以上の女性客がバナナ売り場へと走り出した。
普段は1房しか買わない女性も、3-4房を買い物カゴへと放り込む。
昼までには、売り場からすべてのバナナが消え去り、
果物売り場にぽっかりと穴が開いた。
こんな光景が、1カ月以上も続いた。
同店の林雅道店長は、「毎日食べていたというお客様から、
『買いたいのに買えない。迷惑だ』という苦情も。
納豆ダイエットの時よりすごかった」
ブームの下地は、インターネットにあった。
国内最大級のソーシャルネットワーキングサービス「mixi」に、
朝食を水とバナナだけにする朝バナナダイエットを語り合う
コミュニティが登場したのは、06年7月のこと。
この方法でのダイエット本が出版され、ミクシィでの参加者も増加。
派生したコミュニティは、今でも2万5000人が登録、
朝バナナの実践と、ダイエットの進行を報告し合っている。
朝バナナの関連本4冊は、11月上旬までに計90万部を売り上げる
ベストセラーにもなっている。
9月、テレビが店頭からバナナが消えるほどのブームに押し上げた。
日本テレビの人気情報番組で6-8月に3回、取り上げられたのを機に、
ネット外でも認知度がアップ。
9月中旬には、TBS系情報番組でタレントの体験談として、
「約1カ月半の朝バナナダイエットで、7キロの減量に成功した」と紹介。
スーパーに客が殺到、1、2日でたちまちバナナ不足に。
バナナ輸入量で国内首位のドールは、
テレビで朝バナナダイエットが紹介された6月以降、ブームを予想して、
輸入量を前年比約3割増やして対応。
バナナなど農産物は、年間生産量が限られているため、
日本の輸入量を増やすため、アジア各国から少しずつ融通してもらう必要。
それでも、各小売店で売り切れが続出、市場価格も押し上げた。
愛知県知多市のスーパー「タツミ」では、通常380円で売られていた
約15本のバナナが付いた房が、一時は700円近くまで上がった。
それでも飛ぶように売れ、1週間前から予約を取って対応。
1房に4-5本のバナナが付いた商品は、仕入れることもできなくなった。
同店で働く女性は、「あれほどあったバナナが、こんなに売れるなんてねえ」。
バナナがいつも通りに買えるようになったのは、10月下旬。
ブームは収束したが、値段は一部で高止まりしたまま。
名古屋市消費流通課によると、同市中央卸売市場における11月下旬の
バナナ1キロ当たりの卸売価格は、昨年同期より35円高い174円。
9月のテレビ放送後、一時は200円近くにまで急上昇。
平年なら120-130円台に値が落ちる夏場も、
今年はブームのハシリで150円台後半-160円台を推移。
★さまざまな食品登場
日本では毎年、ダイエット食品ブームが起きていると言っても過言ではない。
その歴史は、30年以上前にさかのぼる。
1975年前後に流行した紅茶キノコ。
旧ソ連の家庭で伝統的に飲まれていた飲料、
簡単に台所で栽培できることから大ブレーク。
効能として、▽血庄が下がった、▽胃腸が丈夫になった、
▽肝機能が元に戻った、▽自然にやせた--などがあるともてはやされたが、
医学的には根拠がない。
フィリピンのトロピカルフルーツだった「ナタデココ」が、
ダイエット食品としてもてはやされたのは93年。
翌94年には岐阜県を震源とする「野菜スープ健康法」がブレーク。
バナナダイエットは、85年にもブームになり、今年で2回目。
同様にココア(96年、07年)も2回のブーム。
インターネットでは、過去に流行した粉ミルク(84年)、ゆで卵(88年)、
黒酢(00年)などが依然としてダイエット食品として紹介、
テレビ番組などをきっかけにブームが再燃する可能性がある。
★日本の特殊性指摘
ブームによって、消費者が一斉に特定食品を買い集める構造をどう見るか?
群馬大の高橋久仁子教授(栄養学)は、
「特に最近のブームは、過剰な食料供給と健康志向を背景に、
消費者がテレビの情報に飛びついている」
07年に流行した納豆ダイエットでは、メタボリック症候群への関心が
高まったことで、中年男性までもがスーパーに走った。
情報番組で、バナナを3回も取り上げた日本テレビ総合広報部は、
毎日新聞の取材に書面で、「健康情報については、視聴者の関心も高く、
健康維持と予防を目的として、テーマを選び制作。
『バナナダイエット』に関しても、その観点から選んだテーマ」などと回答。
◆自信のなさ?
高橋教授は、「欧米では、総合的に体にいい健康食品がブームになるのに対し、
日本ではダイエット一辺倒なブームが発生しやすい」と特殊性を指摘。
日本人は、欧米人ほど肥満は少ないことは、統計的に裏付け。
世界保健機構の05年の統計では、
日本で肥満とされるBMIが25以上の女性の割合が、
アメリカ(72・6%)やイギリス(61・9%)では6割を超え、
日本(18・1%)は極端に少ない。
それでも、ダイエットに対し、特に女性が強いこだわりをみせている。
宮城大の樋口貞三教授(食品産業政策)は、
「美の追究というより、日本女性の自信のなさがブームにつながっているのでは」
◆都合よく解釈
キャベツダイエットを提唱したことがある
吉田俊秀・京都市立病院糖尿病代謝内科部長は、
「情報が独り歩きして、キャベツだけ食べればやせる、と誤解されるのは迷惑」
吉田部長が提唱した正しいキャベツダイエットは、
食前にキャベツを6分の1玉食べることで、胃に満腹感を与え、
全体の食事量を減らす。
キャベツに飽きたら、キュウリやトマトを加える。
繊維質で、ビタミンCが体によく、満腹感も得られるものをとり、
食べ過ぎを防ぐ手法で、そもそもは肥満の人のために考えられた。
吉田部長は、「ダイエットの方法は、太った原因や、減らす必要がある
体重によっても違い、百人百様だ。
特定の食品を食べ続けるだけで、やせるはずがない」
大事なのは、「正しい生活と、バランスの取れた食事や適度な運動」
取材を通じて実感したのは、こんな当たり前のことこそ、
健康的なダイエットにつながるということ。
◇効果不明だが規則正しい生活で体調改善
効果があるのかどうかを実際に試してみよう、ということで、
健康診断で、メタボリックシンドローム
(内臓脂肪症候群、腹囲男性85センチ、女性90センチ以上)に迫る勢いの
木村文彦記者(37)が、脱メタボに向けて、朝バナナダイエットに取り組んだ。
初日のウエストは82センチ、体重70キロ、体脂肪率は25・1%。
起床し、コップに常温の水とバナナ1本を用意。
一口ぐらいのバナナを、よくかんでから飲み込み、水を飲んだ。
食後は、意外と満腹感があり、「これならいけるかも」と思ったが、
空腹感が襲ってきて、ヨーグルトを食べて耐えた。約1時間運動もした。
夕食は、午後8時までに済まそうと心掛けたが難しく、10時までに済ませた。
3、4日経過し、朝1本のバナナとコップ1杯の水も慣れた。
お通じがよくなった気がしてきた。
2週間後、ウエストは83センチ、体重は68・4キロ、体脂肪率は23・8%。
ダイエット効果は不明だが、朝食を取ることで昼、夕食の量が減った気がする。
規則正しい生活をすれば、体調もよくなるということを実感。
◆バナナと日本人
日本に紹介されたのは16世紀、ポルトガルの宣教師が織田信長に
献上したのが最初と言われる。
1903年、台湾から正式に輸入が始まった。
「風邪を引いた時だけ食べられる」と言われる高級滋養食品だったが、
1963年に輸入が自由化され、エクアドル産やフィリピン産の流入が急増。
総務省の家計調査では、04年に1世帯当たりの果物の年間購入数量が
初めてミカンを抜いて1位になった。
今では「日本人が一番口にする果物」に。
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◇ダイエット効果がある、として流行した主な食品
(年代はブームのピーク時)
1975年 紅茶キノコ
85年 バナナ
88年 ゆで卵
92年 リンゴ
99年 唐辛子
00年 キノコ、おから、黒酢
02年 低インシュリン食品、ビール酵母
03年 アミノ酸
04年 にがり
05年 寒天
06年 キャベツ、杜仲茶
07年 納豆、ココア
08年 朝バナナ
(03年以降、コンニャク、豆腐、豆乳、バナナ酢などがはやった)
http://www.m3.com/news/news.jsp?sourceType=GENERAL&categoryId=&articleId=84518
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