(毎日新聞社 2008年12月7日)
県立久慈病院に勤める看護師、小野寺るり子さんは今秋、
腹痛で運ばれてきた20歳代の女性患者を思い出すと、今でも肝を冷やす。
「女性が助かったのは、たまたまだったんです」
小野寺さんが当直の夜、腹痛を訴える女性が運ばれてきた。
子宮外妊娠が判明。
産科医を呼び出し、手術が始まった。麻酔をするのは、当直の外科医。
久慈病院は06年、1人しかいない常勤の麻酔科医が異動して不在に。
県医療局労働組合久慈支部によると、
外科医ら麻酔を行うことができる医師が代役を務め、
全身麻酔を要する手術は行わないようにしている。
子宮外妊娠の女性が手術した夜、もし麻酔のできる医師がいなければ、
救命救急センターがある別の基幹病院に搬送しなければならない可能性も。
最寄りの県立二戸病院に行くにしても、
救急車の手配や手術の準備などで2時間近く必要。
「搬送したら、間に合わなかったかもしれない」。
同支部長で、主任看護師の韮山弘子さんは、
「たった1人の常勤医を、年中無休でこき使っていたようなもの」
当時30歳代だった麻酔科医は、通常の手術に加え、
救急患者が搬送されれば呼び出される。
県立釜石病院にも、定期的に診療応援。
週1回、岩手医大に麻酔科医を派遣してもらったが、
抜本的な解決につながらなかった。
県防災消防年報や久慈病院の調査によると、
久慈地方(久慈市、洋野町、野田村、普代村)の救急出動は、
05年1457件から07年1594件と増える傾向だが、
久慈病院の1日平均救急取り扱い件数は、
05年度37・5件から07年度35・6件に減少。
同支部は、「麻酔科医不在の久慈病院を敬遠し、
重症者は盛岡市や青森県八戸市の病院に搬送しているのかもしれない」
麻酔科医などの専門医の不足は、久慈病院に限った問題ではない。
国は83年以降、「将来の医師過剰」を理由に医学部の定員を削減。
04年現在、人口10万人あたりの医師数は200人で、
経済協力開発機構(OECD)加盟国の平均310人を大きく下回る。
医療が高度になり、診療科が細分化したことも拍車をかけた。
医療法で定められている必要医師数の充足率(08年)で見ると、
県医療局全体の平均は134・0%。
県央・県南部の基幹病院は205・8-141・0%と上回っているのに対し、
県北・沿岸部は98・4~126・9%と下回り、内陸部との格差が際立つ。
こうした現状に県医療局は、新経営計画で、
「各病院の役割・機能を踏まえ、医師の配置を設定する」とうたうが、
県立中央病院の望月泉副院長は、
「計画通り無床化しても、医師は勤務が厳しい基幹病院に戻らず、
(個人)開業するのでは」と首をかしげる。
県医療局の根子忠美・経営改革監は、
「来年度の人員配置は未定。
新経営計画の策定後、来年4月に向けて詰めていく」
新経営計画を進めると、地域の救急、専門医療を担うとされる
基幹病院の役割は果たせるのか、肝心の医師の配置は不透明なまま。
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◇医療法による医師充足率(研修医除く 県医療局まとめ)
病院名 充足率(%)
中央 205.8
花巻厚生 147.1
北上 163.0
胆沢 141.0
磐井 188.0
大船渡 119.5
釜石 98.4
宮古 126.9
久慈 124.6
二戸 111.6
医療局平均 134.0
http://www.m3.com/news/news.jsp?sourceType=GENERAL&categoryId=&articleId=84515
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