2008年12月7日日曜日

地域が支える学校(1)自然体験・食育 住民が先導

(読売 12月2日)

「地域が支える学校」が増え続けている。

ススキの穂が目立ち始めた10月下旬。
京都市の野外活動施設「花背山の家」(左京区)の坂道を、
双眼鏡を手にした市立新町小学校の66人の5年生が上っていた。
野鳥観察用のスコープと三脚を持って先頭を歩くのは、
観察歴20年を超す沢島哲郎さん(77)。
校区内に住む日本野鳥の会京都支部長。

観察場所にたどり着くと、子供たちは10ほどのグループに分かれて散った。
それぞれのグループの引率役も、地域住民や保護者らが担った。
「山の家」での宿泊自然体験学習は、週末を挟んだ4泊5日。
昨年より2泊も延びた。

食事の用意を一緒にしたり、夜の「お話し会」の講師をしたり、
やることは山ほどある。
市街地から車で1時間以上かかる施設で、
子供たちと過ごした地域住民や保護者は、5日間で32人に達した。

ここまで地域が学校を支えるのは、新町小が3年前、
コミュニティスクールに指定されたことが大きい。
指定でできた学校運営協議会の藤原信生会長(65)は、
「先生がいかに大変な仕事をしているかを身にしみて感じた」。
そう言いながら、子供たちとの交流が楽しくて仕方がない様子。

学校側も、マンパワーとして頼りにするだけでなく、
「地域の思いを聞ける機会になる」と佐渡規雄教頭(54)。
「山の家」での就寝前の反省会は、大人同士のよもやま話で盛り上がる。
交流が互いの信頼関係を増し、パワーの源に。

京都市は、コミュニティスクールの指定が、128校にもなる。
明治初期に町衆が作った「番組小学校」の伝統があるとは言え、
全国的にも突出した数字。

新町小も、番組小の歴史をひく学校の一つ。
3つの学区を統合する形で、1997年に生まれた新しい学校。
新町小が力を入れている教育の一つに、食育がある。
学校運営協議会傘下で実動部隊になる企画推進委員は144人もいるが、
うち30人までが食育担当(教職員を含む)。

契機は、前校長が3年前、自宅近くに畑を借り受けたこと。
「西賀茂農園」と名前の付いた畑の活用は、
学校運営協議会での議論の最初のテーマ。

食育は、学校教育の根幹。
教科の力、学校だけではつかない生きる力をつけることをめざしている」と
今年から就任した多田彦士校長(54)。

畑に子供たちを引率する際も、農作業そのものも、日常的な畑の管理も、
その広さや学校との距離を考えると、地域住民の協力がないと続かない。

一方で、教職員も交代でたびたび足を運ぶ。
地元の幼稚園の園長も、運営協議会の理事を務めていることから、
畑には幼稚園児が世話をするエリアも出来た。
新町小学校の1年生と、収穫したトウモロコシで、
ポップコーンパーティーを一緒に開くなど、幼小連携の取り組みもある。

京都ならではの取り組みとして、老舗料理店の協力を得て、店も見学し、
京料理の伝統についても教わっている。

こんな学校だから、教員は地域の行事に進んで入っていく。
「地域の人に、子供のために色々やってもらっていると
教員が感じているから」(多田校長)。
地域でも、「よう来てくれた」と歓迎。
教員は、「やっぱり行って良かった」と好循環が生まれる。

藤原会長は、学校を訪ねるたびに
「あんたら、はよ(早く)、帰りなはれ」と教職員に言っている。
「我々の活動も、先生方が地域行事に参加するのも、
ボランティアという点では同じ。
がんばった分、先生たちには、異動時の昇進も含めた処遇で評価をしてほしい」

「学校が困っていると言うだけではだめ。校長も教師も変わらないと」と多田校長。
地域が支える学校では、教職員の意識改革も求められている。

◆コミュニティスクール 指定343校地域に偏り

地域住民らが教育活動を支えてきた公立学校は多いが、
コミュニティスクールは、地域住民らが学校運営に「参画」する学校として、
2004年改正の地方教育行政組織法に規定。
保護者や地域住民が一定の権限と責任を持つことで、
そのニーズを学校運営に迅速かつ的確に反映させる狙い。
地域運営学校とも呼ばれている。

教育委員会がコミュニティスクールを指定、非常勤特別職の公務員となる
学校運営協議会の委員を任命。
協議会は、地域によって「理事会」、「学校運営委員会」などとも呼ばれる。
教育内容や予算など学校運営の基本方針に意見を述べ、承認。
教職員の採用でも、任命権者に意見を述べる。
任命権者は、その意見を尊重。

現在、全国に幼稚園、小中高校、特別支援学校を合わせて
65自治体で計343校が指定。
自治体別では、京都市110校、島根県出雲市49校、
岡山市35校などが目立つ。
京都市や東京都内などでは、その後も増えているが、
東北・北海道では10校に満たないなど、地域的には偏りがある。

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20081202-OYT8T00227.htm

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