2008年12月10日水曜日

地域が支える学校(4)郷土を愛する心育む

(読売 12月5日)

徹底した郷土学習が、地域住民と子供たちの心をつなぐ。

広島県尾道市立土堂小学校は、瀬戸内海を見下ろす高台にある。
5年生の郷土学習は、卒業生でもある作家、林芙美子の生涯を
調べるために、50人が4班に分かれて街に出た。

ある班は、芙美子の育った家を訪れた。
講師役は小森マリ子さん(59)。
隣接する喫茶店「芙美子」を夫婦で経営し、家屋も管理する。

「この家から、皆さんと同じように学校前の70段の階段を上って通ったんですよ」、
「幼い頃は貧しかった。でも、努力は夢をかなえてくれることを忘れないで」。
メモをとる子供たちの表情が引き締まる。
家は1階が土間で、2階に5畳ほどの和室がある。
「狭い中、親子3人で暮らしていたんだ」と子供たちは驚いた様子。

「子供の姿が地域にあるだけで、住民には大きなエネルギーになります」。
説明の後、小森さんは強調した。

土堂小は県内唯一、地域住民らが学校運営に参画するコミュニティスクール。
3年前に指定され、学校運営の柱となるミッションステートメントに
郷土学習を盛り込んだ。

郷土学習は、全学年で行われている。
低学年は学校周辺の探索から始め、高学年は、映画や文学など、
テーマごとに尾道の歴史を調べる。
学んだ内容で児童が俳句を作り、商店街の空き店舗に展示するなど、
地域住民に見える形で成果も披露。
祭りや敬老会など、毎月、地域住民とかかわる機会もある。

「尾道には小道が多い。すれ違えば、子供も大人も自然とあいさつを交わす。
地域と触れ合う文化を授業の中でも大切にしたい」と松原隆二校長(57)。
コミュニティスクールの協議機関である学校運営協議会が昨年、行った
アンケートでは、「子供が尾道に愛着を持つようになった」
と感じる保護者が96%もいた。
郷土学習担当の藤井浩治教諭(47)は、
「知識を増やすだけでなく、住民から生き方も学んでほしい」と期待。

確かな基礎学力を身に着けることも、協議会が掲げる同小の大きな目標。
2003年度から3年間、校長を務めたのは、
「百ます計算」で知られた陰山英男・立命館大教授。
「読み・書き・計算」の徹底した反復学習の指導は、その後も受け継がれている。

陰山さんが校長になった初年度、同小は特例的に全市から通えるようになり、
翌04年度からは全市で学校選択制を導入。

11月に行われた新入生の保護者向け公開授業。
学区外に住む男性会社員(33)は、
「元気のある子が多く、郷土学習にも好感を持っている。娘をぜひ入学させたい」

同小には、選択制の導入以降、学区外から通える子供の定員を
常に上回る40~50人の入学希望者がある。
その数字は、かつては、廃校のうわさが出た学校の運営方針が
支持されていることの証しと言える。

◆ミッションステートメント

「行動指針」のような意味で使われる。
土堂小では、学校運営協議会が理想の学校像を明文化した。
〈1〉基礎・基本を大切にし、確かな学力を育む学校
〈2〉尾道の魅力を追求する学校
〈3〉コミュニケーション能力を育てる学校
〈4〉学ぶ力と遊ぶ力と生きる力を育む学校
〈5〉児童・保護者・地域がともに学び運営する学校――を掲げている。

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20081205-OYT8T00182.htm

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