(読売 12月5日)
徹底した郷土学習が、地域住民と子供たちの心をつなぐ。
広島県尾道市立土堂小学校は、瀬戸内海を見下ろす高台にある。
5年生の郷土学習は、卒業生でもある作家、林芙美子の生涯を
調べるために、50人が4班に分かれて街に出た。
ある班は、芙美子の育った家を訪れた。
講師役は小森マリ子さん(59)。
隣接する喫茶店「芙美子」を夫婦で経営し、家屋も管理する。
「この家から、皆さんと同じように学校前の70段の階段を上って通ったんですよ」、
「幼い頃は貧しかった。でも、努力は夢をかなえてくれることを忘れないで」。
メモをとる子供たちの表情が引き締まる。
家は1階が土間で、2階に5畳ほどの和室がある。
「狭い中、親子3人で暮らしていたんだ」と子供たちは驚いた様子。
「子供の姿が地域にあるだけで、住民には大きなエネルギーになります」。
説明の後、小森さんは強調した。
土堂小は県内唯一、地域住民らが学校運営に参画するコミュニティスクール。
3年前に指定され、学校運営の柱となるミッションステートメントに
郷土学習を盛り込んだ。
郷土学習は、全学年で行われている。
低学年は学校周辺の探索から始め、高学年は、映画や文学など、
テーマごとに尾道の歴史を調べる。
学んだ内容で児童が俳句を作り、商店街の空き店舗に展示するなど、
地域住民に見える形で成果も披露。
祭りや敬老会など、毎月、地域住民とかかわる機会もある。
「尾道には小道が多い。すれ違えば、子供も大人も自然とあいさつを交わす。
地域と触れ合う文化を授業の中でも大切にしたい」と松原隆二校長(57)。
コミュニティスクールの協議機関である学校運営協議会が昨年、行った
アンケートでは、「子供が尾道に愛着を持つようになった」
と感じる保護者が96%もいた。
郷土学習担当の藤井浩治教諭(47)は、
「知識を増やすだけでなく、住民から生き方も学んでほしい」と期待。
確かな基礎学力を身に着けることも、協議会が掲げる同小の大きな目標。
2003年度から3年間、校長を務めたのは、
「百ます計算」で知られた陰山英男・立命館大教授。
「読み・書き・計算」の徹底した反復学習の指導は、その後も受け継がれている。
陰山さんが校長になった初年度、同小は特例的に全市から通えるようになり、
翌04年度からは全市で学校選択制を導入。
11月に行われた新入生の保護者向け公開授業。
学区外に住む男性会社員(33)は、
「元気のある子が多く、郷土学習にも好感を持っている。娘をぜひ入学させたい」
同小には、選択制の導入以降、学区外から通える子供の定員を
常に上回る40~50人の入学希望者がある。
その数字は、かつては、廃校のうわさが出た学校の運営方針が
支持されていることの証しと言える。
◆ミッションステートメント
「行動指針」のような意味で使われる。
土堂小では、学校運営協議会が理想の学校像を明文化した。
〈1〉基礎・基本を大切にし、確かな学力を育む学校
〈2〉尾道の魅力を追求する学校
〈3〉コミュニケーション能力を育てる学校
〈4〉学ぶ力と遊ぶ力と生きる力を育む学校
〈5〉児童・保護者・地域がともに学び運営する学校――を掲げている。
http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20081205-OYT8T00182.htm
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