2009年2月26日木曜日

挑戦のとき/4 名古屋大教授・山口茂弘さん

(毎日 2月15日)

◇分子創出の魅力説く--山口茂弘さん(39)

「ちょっと下村先生風に」。
紫外線ランプを試験管にかざすと、液体が鮮やかな緑やオレンジの蛍光を発した。
昨年、ノーベル化学賞を受けた下村脩氏は、光るクラゲから蛍光物質を抽出、
この液体は山口さんらが化学合成した有機化合物。
プラスチックなどの有機化合物は、一般的には絶縁体。
分子の並び方によっては、電気を通すことがある。

有機半導体は、現在のシリコン半導体より軽く、柔らかい利点があり、
薄くて折り曲げられるディスプレーなど、未来のエレクトロニクスを支える素材に。

山口さんは、炭素や窒素、酸素を主体とした従来の有機化合物に、
あまり注目されていなかったケイ素やホウ素、硫黄などを巧みに組み込んだ。
これまで実現できなかった機能を持つ、新しい化合物を次々と生み出す。

「今ある素材に、とって代われる決定版でなければ意味がない。
構造を見ただけで、『山口のだ』と分かるような、
名刺代わりになる分子を創り出したい

子どものころは、国語などが好きだったが、高校時代に理科が好きになり、
「何となく研究者を志した」と振り返る。
決定的だったのは、京都大の入学パンフレットで合成化学科の欄に
書かれていた、「パイオニアを育てる」の文字。
「この一言だけで進学先を決めた」という。

「他人と違う分子を作ってナンボ」という雰囲気だったという大学院時代、
「シロール化合物」という分子の骨格に、ケイ素を組み込む反応法を考案。
この方法で合成したシロール化合物は、非常に高い効率で電子を運び、
携帯電話の画面の発光体などに実用化。

世の中になかった分子を、自分で設計して創り出せるのが化学の魅力。
技術の壁を打ち破るような分子は、見るからに美しい」と山口さん。
その美しさを表現しようと、論文などに掲載する化学構造式の書き方にも
工夫を凝らすほどの入れ込みよう。

35歳の若さで教授に抜擢、今でも学生実験の指導を受け持ち、
専攻の決まっていない1年生を相手に、新しい化合物を創り出す
化学の魅力を熱く説く。
理学部の中でも、化学科はトップクラスの人気を誇る。
「いつも学生と一緒にフラスコを振って、『なんで?』と悩み、
新しいものができたら喜び合っていたい」
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◇やまぐち・しげひろ

三重県生まれ。91年、京都大工学部合成化学科卒。
93年同大学院を中退、京都大化学研究所助手。
米マサチューセッツ工科大客員研究員を経て、05年から現職。
08年、文部科学省の「ナイスステップな研究者」に選ばれる。

http://mainichi.jp/select/science/rikei/news/20090215ddm016040037000c.html

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