2009年2月25日水曜日

スポーツ21世紀:新しい波/292 武道の必修化/10止

(毎日 2月7日)

「ボクは武士道フリークや!」(小学館)は痛快な一冊。
交換留学生として日本に来たニュージーランドの高校生が、
剣道を始めたのを契機に武道にとりつかれ、
カンタベリー大学を卒業後、京大大学院に留学して
「実践系武道学者」に成長していくまでの物語を、
ユーモアたっぷり、関西弁でつづっている。

著者は武道社会学、武道人類学を提唱するアレキサンダー・ベネットさん(39)、
日本人の妻と京都府宇治市内で暮らしている。

近年の海外での武道熱の高まりに反して、日本人の武道離れを感じている。
課題の一つとして、日本の伝統文化としての武道に対する評価の低さ。
「武道をやっている人と、やっていない人の意識のギャップが大きい。
『武道は特別で、他のスポーツとは違う』と言いながら、
なぜ違うのか武道家は説明できていない」とベネットさん。

研究論文も、スポーツ科学的なアプローチがほとんどで、
武道の社会的、文化的価値の探求が十分でないのも一因。

複数の大学で講師を務める傍ら、ベネットさんは防具を使わない
剣道の指導法を推奨。
基本技を習得するために、用意するのは木刀だけ。
当たれば痛いので、安全性に配慮してルールは寸止め。
打つ方も打たれる方も、最初は怖くて仕方がない。
そこに緊張感が生まれ、打つ方は相手を傷つけないように気を配り、
打たれる方は相手を信じて身を任す。
それが礼だということを、学生は自然に気付いていく。

武道について、ベネットさんは「残心こそが命」。
技が決まっても、相手から目線を切ってガッツポーズをしない。
武道のルーツは真剣勝負であり、生きるか死ぬかの世界。
技が決まっても決まらなくても(審判が一本と認めても認めなくても)、
次の攻撃や相手の反撃に備える。

ベネットさんは書いている。
「残心とは、平たく言えば『決して油断しない』ということ」。
日常生活にも、あてはまる教訓だ。

http://mainichi.jp/enta/sports/21century/

0 件のコメント: