(日経 8月2日)
掲げたビジョンと戦略を確実に実行させ、
チームを新たな方向に導くには、
「プラン→ドゥー→チェック→アクション(PDCA)」のサイクルを、
地道に回していくことが必要。
大声でしかったり、励ましたりするだけでは、マネジャー失格。
米大リーグのオークランド・アスレチックスは、
1998年シーズンからGMを務めるビリー・ビーン氏が中心となり、
徹底したデータ分析を基に、独自の勝利の方程式を確立。
過去の経験や常識を否定し、データ分析を重んじながら、
選手の発掘、チームの編成、試合での戦術などを再構築。
新たに立てた戦略を、PDCAサイクルで検証し、進化させていった。
新人選手を選択するドラフト会議では、
多くの球団が狙う有名スター選手を避け、
無名でも自分たちが重視している指標(能力)が高い選手を指名。
無名選手の中には、大リーガーとして成功する例も少なくなく、
アスレチックスは2000年代に、5回もプレーオフに進んでいる。
選手の契約金や年俸を安く抑えられるので、
スター軍団のニューヨーク・ヤンキースと比べると、
人件費は3分の1程度で済む。
作戦でも、データ分析を積極的に活用する。
どんな打者でも、カウントが「2—1」よりも「1—2」の方が
ヒットが出る確率が高い。
ボール球を見極めて、「1—2」というカウントにするかが重要。
アスレチックスでは、各打者がどれだけボール球に
手を出しているのかをすべて記録、選手たちにフィードバック。
ボール球は、必ず見送るように徹底して叩きこまれる。
PDCAサイクルは、概念としては古くからあり、
新鮮味は乏しいが、確実に遂行している会社は意外に少ない。
数少ない例が、セブン—イレブン・ジャパン。
同社は、POS(販売時点情報管理)システムによる
売れ筋管理で有名だが、これは提案した商品・サービスが
消費者に受け入れられたかどうかを判断する道具。
大切なのは、消費者のニーズを先読みして商品・サービスを提案し、
PDCAサイクルを迅速に回すこと。
チーム力の向上を考えた場合、力のある監督一人に
頼ってばかりでは、最終的にその器を超えることはできない。
チームが軌道に乗ってきたところ、一段のレベルアップを目指すには、
「モチベーションアップ」がキーワード。
コーチや選手一人ひとりが責任感を持ち、自発的に動くことで、
組織は最大限の力を発揮できる。
昨年のプロ野球日本一となった西武ライオンズの原動力は、
徹底したモチベーションアップ。
単にほめるだけではない。
渡辺久信監督は、多面的に取り組んだ。
「徹底的に選手に話しかけること」。
監督は、選手にとって雲の上の存在と見られがちだが、
渡辺監督は選手に積極的に話しかけた。
選手との心理的な距離感が一気に縮まり、
チームとしての一体感が高まった。
続いて、「目線を下げて丁寧に教える」ことを心がけた。
球界で伝統となっている「不親切な言い放し」の指導を、
渡辺監督は極端に嫌った。
選手が分かるまで手を替え品を替え、コーチングの質を高めた。
「コーチに、目標と責任を与えてじっくり見守る」ようにもした。
権限委譲であり、任されたコーチは責任感を持って、
自発的に動くようになる。
レベルの高い「大人のチーム」に変貌していった。
最後は、「結果論でものを言わない」。
結果だけを求めると、選手は萎縮するばかり。
渡辺監督は、「結果は気にせず、やるべきことに集中して
ベストを尽くせ」という姿勢を貫いた。
フルスイングしていれば、結果が三振であろうと意に介さなかった。
選手が伸び伸びとプレーして、好成績をあげた背景には、
渡辺監督のこうした方針があった。
産業界では、日本マクドナルドの例が特筆に値する。
接客を担当する従業員(クルー)に向けて、
多面的なモチベーションアップ施策を施している。
マクドナルドと言えば、マニュアル主義のイメージが強いが、
実は現場での創意工夫がきめ細かく、品質の高いサービスを
成り立たせている。
現場の改善活動、権限委譲はもちろん、
サービススキルの全国コンテストといった様々な工夫。
中心となっているのが、全国で16万人を超える
モチベーションの高いクルーたち。
◆アリックスパートナーズ ディレクター 古谷公
1986年早大理工卒。
ブリヂストンと外資系コンサルティング会社を経て、
2008年企業再生専門のコンサルティング会社である
アリックスパートナーズに入社してディレクターに。
自動車メーカーや消費財メーカーの営業・マーケティング力強化で
実績をあげている。
http://netplus.nikkei.co.jp/ssbiz/bizskill/biz090730.html
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