(日経 2009-08-10)
日本の環境保全の取り組みといえば、たいてい受け身。
欧州連合(EU)などが新しい基準を定めた環境規制を打ち出し、
海外発のルールや地球環境保護の世界的な流れに、
日本は従ってきたというのが一般的。
温暖化ガスの排出削減も、化学物資の使用抑制など。
海外主導の流れに、一矢報いようとしている動き。
舞台は、原油タンカー。
原油タンクの底板の腐食防止策をめぐる話。
国際機関が、これ1本でいこうとしたルールに、
日本側が“待った”をかけ、日本側の提案内容と併せ、
国際ルールが2本立てになる方向に。
原油タンカーのタンクは放っておくと、
「孔食」という穴(ピット)のあく腐食が起きる。
原油に強酸性の成分が含まれているため。
航行を安定させるためのバラスト水を排出する際、
原油が一緒に海に流出する恐れ。
1997年、石油メジャーから、この腐食を指摘する声。
99年、腐食した個所のメンテナンス不良によって、
船が実際に強度不足で損傷する事故が起こった。
EU域内で、孔食が問題視。
国連の専門機関、国際海事機関(IMO)が、腐食防止のための
ルール作りに乗り出した。
出てきた対策は、メンテナンス時に塗装し直し、腐食が広がるのを
未然に防ごうというもの。
「塗装強化」が国際的な合意として、ルール化される流れ。
技術力で、まったく新しい対策を打ち出したのが、
日本郵船と新日本製鉄。
提案したのは、腐食に強い「耐食性鋼板」を使う、というもの。
最大の特色は、塗装がまったく不要である点。
タンカーを補修際、塗装がいらないだけでなく、
最初にタンカーを建造する段階でも塗装をする必要がない。
世界の流れになりつつあった「塗装強化」の逆をいく。
新日鉄が、複数のレアメタル(希少金属)を組み合わせるなどして、
耐酸性が強く、腐食のスピードが非常に遅い鋼板を開発。
船舶の構造材として使えるよう、高張力鋼板と同等の強度を備える。
日本郵船は、新しい耐食性鋼板「NSGP—1」を原油タンカーに採用。
「TAKAMINE」という名前の原油タンカーで、
新鋼板を試験的に採用、本採用船として、すでに1隻を建造、
4隻のタンカーを建造中。
「塗装が不要」は、環境保全の面からすると、さまざまな利点。
塗装は、塗料と溶剤を混ぜて吹きつけるので、
塗った後に有機溶剤が大気中に出て環境に影響を与える。
塗料を生産する工程で、CO2が排出される、などの点も考えると、
「塗料不要」の環境保全効果は少なくない。
タンカーは、巨大なだけに塗装をし直すとなると作業が膨大になり、
何度も定期的に繰り返せば、コストは高くつく。
新鋼板の採用により、建造コストは従来のタンカーより上がるが、
日本郵船は、「塗装不要」の方が費用対効果が良い、との判断。
新鋼板を試験採用したタンカー「TAKAMINE」は、
実際にどの程度「孔食」が進むか調査を進めている。
新鋼板の性能は上々。
従来は、4ミリのピットが数百から数千生じる場合があったが、
今年4月の2回目のドック入りのときに調べたところ、
数は10個所程度にぐんとヘリ、問題ないレベルに十分収まった。
IMOは、5月に開いた海上安全委員会で、
新開発の耐食性鋼板の採用を腐食防止策として承認。
塗装をし直さなくとも、耐食性鋼板を使えば、
国際的に認められることが内定。
来年2月、開催予定の設計設備委員会で耐食性鋼板の定義や
性能面の基準を詰め、2011年に腐食防止策が2本立てでルール化。
船舶関係の環境保全規制づくりでは、IMOがリーダーシップを発揮。
バラスト水の排出規制として、2004年に「バラスト水管理条約」を採択、
先日、国際海運の温暖化ガス削減対策の大枠も決めた。
日本としても、国際ルールに沿い、地球環境保全へ
積極的な取り組みが求められるが、
原油タンカーの腐食防止策の例でわかるように、
海外諸国が気づかなかったり、技術力がそこまで及ばなかったりする
アイデアを、日本企業が生みだせることがある。
地球環境保全へ貢献する責任を考えれば、
海外発のルールに漫然と従う「受け身」の姿勢は、
そろそろ改めた方がいい。
http://netplus.nikkei.co.jp/ssbiz/tanso/tan090804.html
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