(読売 8月5日)
美術館が小学校で事前授業を実施している。
「お父さんとお母さんがけんかして、
子どもが仲直りの方法を考えている」、
「箱の中に何が入っているのか、早く見たい」、
「人生を悩んでいる」、
「あなたが大好きです。せっかく会えたのにさようなら」
世田谷区立東玉川小学校の図工室。
黒板に張られた抽象画のコピーを前に、4年生児童らが
「絵の中の人間が何をしていると思うか」について様々な考えを発表。
それを受けて、講師を務めた東京学芸大学3年の
九十九由紀さん(20)が、「正解はありません。でも、作者がこれを
描いた時は戦争の後で、大変な時代。
みんなが感じたり、悩んでいたり、というのは間違いないのでは。
その気持ちを大切に、明日は本物を見て下さい。
いろんな絵があるので、一つ一つ、考えてみて」
九十九さんは、同区砧公園にある世田谷美術館のインターン生、
コピーの絵は抽象画家、朝妻治郎作「人間」。
子どもたちが翌日、同館の収蔵品展「人のかたち、人の想い」を
鑑賞するのを前に行われた事前授業。
世田谷美術館は、1986年の開館当初から、
区教育委員会の要請で、区内の小学校4年生全員を対象にした
鑑賞教室を館内で開いてきた。
全国でも先駆的な試み。
学芸員の高橋直裕さん(53)によると、子どもたちは、
せっかくやって来ても、何となくダラダラ見て帰ってしまうばかり。
「目的を持たせたい」と、図工担当教諭の団体と相談、
96年から希望校を対象に始めたのが事前授業。
学芸大からのインターン生約15人が順番に担当、
学芸員も、事前の打ち合わせから美術館での鑑賞教室の
当日まで毎回加わる。
準備の都合などの制約はあるが、年間で区内64校のうち、
約40校を訪れている。
事前授業を受けた東玉川小の児童が、美術館に。
走らない、騒がない、触らないなどのマナーについて、
学芸員の注意を受けた後、市民の美術館ボランティアに連れられ、
グループに分かれて館内を見学。
「人間」の前まで来ると、何人かが足を止め、
「あ、『人間』あったよ」、「色が違うね」、「昨日より大きく見えるよ」
と感想を漏らすが、別の作品に興味をひかれると、
どんどん移動していった。
一見、効果は明確ではないようだったが、高橋さんは、
「事前授業をしていると、来館した時の子どもたちの感度が違う。
これをきっかけに何度も足を運んでくれれば」
事前授業とほぼ同時期に始まったボランティアが、
会話しながら行う引率も、分かりやすいと好評。
手間暇かかることもあり、ほかの美術館にはなかなか広がらない。
それだけに、貴重な試み。
収蔵品展「人のかたち、人の想い」は、7月で終了。
現在は、企画展「メキシコ20世紀絵画展」が30日まで開催中。
http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20090805-OYT8T00290.htm
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