2009年11月25日水曜日

理系白書’09:挑戦のとき/18 山形大准教授・中山健一さん

(毎日 11月17日)

◇新たな有機トランジスタ--中山健一さん(37)

あらゆる電子回路の心臓部に使われ、
「産業のコメ」と呼ばれる半導体。
現在は硬いシリコン製だが、樹脂のような有機化合物で作れば、
折り曲げられるディスプレーや太陽電池なども夢ではない。
企業も巻き込んで競争が激化。
中でも、トランジスタは電気信号を増幅したり、
スイッチの役割を果たす重要な半導体素子の一つ。

中山さんは、新しい原理で作動する有機トランジスタを考案。
有機トランジスタは実用化を目指し、さまざまな工夫が試み。
主流は、今のシリコン製と同じ原理を使い、薄膜の面内に
電流を流す横型タイプ。
電極間の距離を短くするほど、高性能なトランジスタを作れるが、
横型方式の製造には大規模な設備が必要でコスト高に。

中山さんは05年、単純に薄膜と電極を重ねるだけで、
薄膜の厚み方向に電流を流す縦型方式の
有機トランジスタができることを発見。

膜の厚さは、ナノメートル(100万分の1ミリ)単位で制御、
比較的簡便に製造できる上、発光する有機トランジスタなど
新たな機能も実現できた。

「流行に乗るより、他人と違う仕事がしたかった。
動作したのは、材料の選択と膜の厚みの組み合わせが
偶然、よかったから。
動作原理もまだ完全には分かっていないが、
実用化できる可能性は秘めている」

小さいころから「なぜ?」という質問を、よく親にしていた。
小学5年のとき、光と電波が同じもの(電磁波)だと知って感動し、
理科に興味を持った。
高校時代、色鮮やかな試薬を使う化学の実験にひかれ、
応用化学科に進学。
「台車を転がしたりする高校の物理実験は地味で、好きではなかった」

配属されたのは、物理の理論を使ってエレクトロニクスを
研究していた研究室。
「そこで勉強するうち、理論として一本に集約していく
物理の美しさに気づいた」

有機エレクトロニクスの分野では、化学を学んだ材料系研究者と、
物理を基礎とした電子工学系の研究者が、
同じ土俵で議論することも多い。
「異なる背景の研究者が競争しながら、
より本質的なものを追求するのが面白い」

「よくも悪くも、(論文などで)自分の名前で仕事が残るのが研究者。
『これが私の仕事です』と、胸を張って言えるのがやりがいだ

「折り曲げられるディスプレーが、本当に必要とされるのか
どうかは分からない。
今の人々が気づいていないような使い方、市場を開拓し、
本当に世の中の役に立つものを作っていきたい」と中山さん。

視線は研究だけでなく、社会への出口も見すえている。
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◇なかやま・けんいち

神戸市出身。00年、大阪大大学院工学研究科修了。
大阪大助手を経て06年8月から現職。

http://mainichi.jp/select/science/archive/news/2009/11/17/20091117ddm016040124000c.html

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