2010年1月31日日曜日

理系白書’10:挑戦のとき/21 九州大助教・正岡重行さん

(毎日 1月26日)

ほぼ無尽蔵にある水を、太陽光で分解し、
エネルギーを作り出す。
究極のクリーンエネルギーの一つとして、
人類が追い続けている夢。

植物が光合成という一連の反応の中で、太陽光を使った
水の分解を軽々とこなしているにもかかわらず、
人類はこの反応を実用化できていない。

正岡さんは、植物の葉緑素と似た金属錯体
(金属と有機物の複合体)を利用、「人工光合成」に挑んでいる。

光を吸収して、水を水素と酸素に分解する光触媒自体は、
60年代に藤嶋昭・東京大特別栄誉教授(67)らによって発見。

半導体などを触媒に使った方法で、研究が進んできたが、
太陽光の主成分である可視光を十分に使えないなど、
効率がなかなか上がらないのが現状。

正岡さんが使う金属錯体では、まだ水を完全には分解できない。
水素は取り出せるが、同時に酸素も発生させない限り、
反応を継続するには外から電子を供給する必要。
電子の供給に電気を使ったのでは、
エネルギー問題として意味がない。
酸素を発生させる触媒に、課題がある。

正岡さんは、「何億年もかけた進化の過程で、
試行錯誤した植物が金属錯体を選んでいる。
植物に匹敵する機能を実現するには、
こちらが有利なのではないか」との見立て。

小学生時代、昆虫少年だった。
「特に他人の知らない虫が好きで、カブトムシより、
石をめくってハサミムシを探していた」
高校生になると、「アルバイトと遊びに明け暮れ、
遅刻回数は学年トップ。勉強は嫌いだった」

優等生の多い研究者としては、異色の生活を送った。
「先生が好きで、これだけは勉強した」という
化学1教科の試験で、同志社大に推薦入学。
ここで学問に目覚めた。
「教科書に書いてあることは、10年くらいでどんどん
塗り替わるもので、その新しいことを作り出すのが
大学だと分かった。
世の中にない現象や物質を見つけたかった」

08年3月、従来の定説では考えられない構造の金属錯体が、
酸素発生触媒として働くことを日本化学会で発表。

当初、学会は「君、それは間違いだよ」と冷ややかだったが、
80年代以降大きな進展のなかったこの分野に、
新しい風を吹き込み、今や主流のアイデアとなって
世界的な競争が起きている。

「大学院では違う研究をしていて、あまり知らずに
水の分解の研究に入ったのがよかったのかもしれない。
ゼロから何かを作るところに、研究者の面白さがある。
これまで誰も考えなかったような領域、概念を作り出したい。
飽き性だと怒られるかもしれないが、5年くらいの間隔で
いつも新しいことをやっていたい」
==============
◇まさおか・しげゆき

77年、大阪府枚方市生まれ。同志社大工学部卒、
京都大大学院修了。英リバプール大研究員を経て05年から現職。

http://mainichi.jp/select/science/news/20100126ddm016040131000c.html

0 件のコメント: