2010年2月1日月曜日

和文化を知る(1)美しい日本語 身に着く授業

(読売 1月19日)

日本語の美しさを学び、伝統文化を知る。

さよなら三角また来て四角。四角は豆腐。豆腐は白い……。
新潟県新発田市の市立五十公野小学校の1年生の教室、
かわいらしい歌声が聞こえてきた。
2人ひと組で考えた、しりとり歌を発表する「日本語」の授業。

「四角は」から始め、10以上の言葉をつなげて、
「ひかるはみんなの笑顔だよ」で終えるのがルール。
前回までの授業で、思い浮かんだ言葉を画用紙に書き出し、
うまくつながるよう整理。
ひと組ずつ順番に歌い、歌い終わるたび、ほかの児童が、
「サメが出てきたのが面白い」などと気づいたことを述べていた。

新発田市では今年度、文部科学省の教育課程特例校制度を
利用し、独自教科の「日本語」を新設。
市内の全小中学校で、年間20~35時間を教えている。

狙いは、古典作品などを通じて日本語の美しさに触れ、
表現力やコミュニケーション力を養うとともに、
日本の文化や伝統に誇りを持つ心を育てること。
市教委が作成した教科用の図書には、
論語や俳句、短歌が数多く並ぶ。

子どもたちがあきずに「楽しく」学べるよう、
各校で授業を工夫している。

同小の6年生の授業を見学すると、児童が机を向かい合わせにし、
「長久安全」、「至誠一心」などの4文字熟語が書かれた
10枚の札を、カルタのように取り合うゲームをしていた。

これらの言葉は、2004年の新発田城の復元に際し、
町の繁栄を願って選ばれた「願文」。
ゲームを終えると、この日の主題の、自分たちの願いを
漢字4文字にまとめるオリジナルの願文作りに取り組んだ。

各学年とも、授業では、各自が感じたことや思いを発言したり、
文章にしたりする機会を設けている。
「作文などでも、難しい漢字を使い、こった表現をする児童が
増えています」と、同小の研究主任の鈴木真史教諭(45)。

意欲の証しのひとつは、廊下の壁に並べられた児童作の
五言絶句の漢詩。
「金木犀」「鶯」など、学校で習わない字が多く見受けられた。

新発田市が参考にしたのは、東京都世田谷区の取り組み。
同区では、「日本語は、思考や表現の基盤。
日本文化の理解に不可欠」として、03年度から俳句作りや
百人一首大会など、小中各校で日本語を重視した
授業や行事を取り入れてきた。
日本語教育特区の認定を受け、07年度からは
教科「日本語」の授業(年間35~70時間)を全小中学校で導入、
教科用図書を作成。

区立船橋小学校の1年生の授業。
冒頭に、全員で宮沢賢治の詩や論語を暗唱した後、
山上憶良の短歌の学習に入った。
意味も説明するが、目的はリズムや響きを味わうこと。
一首だけだが、授業の終わりには、
多くの児童が暗唱できるようになっていた。

小学校は、古典や現代詩などの朗読・暗唱が主だが、
中学の「日本語」は、三つの領域に分かれる。
現代文などを読んで意見交換したりする「哲学」、
ゲームの説明書作りなどにも取り組む「表現」、
衣食住や伝統芸能などの知識を深める「日本文化」。

「自分の言葉で徹底的に考え、表現させています。
受験の論文や面接にも役立つはず」と
区立八幡中学校の君島光司校長(61)。
言葉を友とし、子どもたちは明日への力を身につける。

◆教育課程特例校制度

学習指導要領によらず、学校や地域の特色を生かした
教育課程を編成できるようにする制度。
内閣府が認定していた教育特区に替わるもので、
手続きの簡素化を図り、08年度から文科省の指定に。

◆見直されはじめた伝統

茶道や和楽器、郷土芸能、古典の朗読など、
伝統文化を重んじた学習に力を入れる学校が増えている。
「和文化教育研究交流協会」理事長の
中村哲・兵庫教育大教授(61)によれば、
小・中・高で全国1000件以上に上る。

きっかけは、現行の学習指導要領(小中は1998年告示、
高校は99年告示)に、総合的な学習の時間の設置や
中学音楽の和楽器の必修化が盛り込まれたこと。
06年の教育基本法改正で、教育目標の一つに
「伝統と文化の尊重」が掲げられ、新学習指導要領に
伝統や文化に関する教育の充実がうたわれたことから、
動きは活発化した。

「戦後社会の行き詰まりで、教育界が長く遠ざけていた
日本文化が見直され始めた」と背景を説明、
中村教授は、「大事なのは、単に過去の遺産を継承するのでなく、
現代社会との関連性を踏まえ、新たな文化の創造へとつなげること。
そうした視点を持った教員の養成も必要で、
国の後押しに期待したい」

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20100119-OYT8T00219.htm

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