2010年2月6日土曜日

デル氏に薦めるユニクロ社長の1冊

(日経 2010-01-21)

パソコン大手、米デルが経営不振から抜け出せない。
2009年8~10月期決算は、純利益が1年前から半減。
調査会社ガートナーによると、09年10~12月期の
世界パソコン販売台数の伸び率は、
前年同期比5.7%と上位5社で最低。

米ヒューレット・パッカード(HP)に次ぐ、シェア2位の座を
台湾のエイサー(宏碁)に奪われて以降、
失速に歯止めがかからない。
マイケル・デル最高経営責任者(CEO)の苦悩は深い。

そんな悩めるカリスマ創業者に薦めたい本。
ファーストリテイリングの柳井正会長兼社長が、
09年に出版した『成功は一日で捨て去れ』。
勝ち組ユニクロの経営の極意がまとめてあり、
ビジネス書のベストセラー。

デルとユニクロ。2社には共通点が多い。
テキサス大の学生だったデル氏が、1000ドルの資金で
デルコンピュータ(現デル)を設立したのは1984年。

この年、柳井氏は
「ユニーク・クロージング・ウエアハウス(ユニクロ)」1号店を
広島市にオープン、父親が創業した洋服販売会社
(現ファーストリテイリング)の社長に。

世間の注目を集めるきっかけが、「安さ」だったのも同じ。
デルは90年代初め、パソコンの価格破壊メーカーとして台頭。
日本でも、10万円を切る製品を売り出して有名に。
01年、世界シェア首位に躍り出た。

ユニクロは98年、1着1900円のフリースが爆発的にヒットし、
全国区企業の仲間入りを果たす。

デル氏、柳井氏ともに、経営トップの座からいったん退いたが、
経営の変調を受け、復帰した経歴もダブる。

2010年。両社の経営は、見事に明暗が分かれている。
デルとは対照的に、ユニクロは今月8日、
10年8月期の業績予想を上方修正。
売上高、営業利益とも、前年同期より2割増えると発表。
国内外で、新商品の売れ行きが好調に推移。

勝因は何か?
柳井氏の著書からヒントを探せば、「従来の衣料品小売業界で
一般的であった委託販売方式を取らず、自社で商品企画開発、
製造、販売を一気通貫で行っていること」に行き着く。

ユニクロは、SPA(製造小売業)という業態。
柳井氏は、「顧客ニーズを本当につかんで、自分自身で企画し、
商品開発を行い、タイムリーなマーケティングとともに、
お客様に商品の良さを伝えて、自分自身の手で売っていく」と
自社のビジネスモデルを解説。

顧客にぴたりと寄り添うことで、売れる商品を繰り返し生む。
デル氏がこうしたくだりを読めば、「全くその通り」と
ひざを打つことだろう。

デル躍進の原動力も、顧客密着型のビジネスモデル。
電話やネットで、顧客から好みのパソコンの注文を受け、
自ら組み立てたうえで直接、顧客に届ける。
パソコン、アパレルという分野の違いはあるが、
両社の経営の基本思想は極めて似通っている。

なぜ、デルだけが置いてきぼりを食らったのか?
突き詰めれば、顧客密着モデルの形骸化が原因。

09年、米ニューヨーク州のアンドリュー・クオモ司法長官は、
半導体最大手、米インテルが世界で約8割のシェアを握る
MPU(超小型演算処理装置)の販売で、
独禁法に違反する行為をしたと同社を裁判所に訴えた。

多額のリベートを与える見返りに、ライバルである
AMD製のMPUを買い控えるよう、パソコンメーカーに圧力。
電力消費が少ないAMD製品は評価され、パソコンへの普及が
進んだが、最後まで動きが鈍かったのがデル。

デルは、唯一のMPU調達先であるインテルとの安定した
取引関係にこだわり続け、AMD搭載パソコンの投入が遅れ、
商機も逃した。

長官がインテルの不正の「証拠」として示した資料には、
05年、デル氏がインテルのポール・オッテリーニCEOに
送ったとされる電子メールが含まれている。
「(AMD搭載パソコンがないために)性能競争で負けている」。

顧客ニーズより、取引先を優先する経営の行き詰まり。
デル氏本人がいらだつほど、デルモデルは機能不全に。
企業へのデスクトップパソコン販売に依存し、
市場拡大をけん引する個人向けノートパソコン事業で
つまずいたのも痛かった。

「顧客が、効率重視の犠牲になった」とデル幹部。
顧客の生の声を聞く絶好のチャンスであるカスタマーサポートの
電話応対は、できるだけ短い時間で切り上げるのが良しとされた。

顧客を驚かせ、その目を自社に向けさせるための技術開発も、
デルは手薄かもしれない。
直近の四半期決算でみると、売上高に占める
研究開発費の比率は1.2%。
パソコンで競合するHP(2.3%)、米アップル(3.6%)と
比較しても低い。

デルにとって、最大の商品である「ウィンテルパソコン」は、
研究開発費がともに売上高の15%に達する米マイクロソフト、
インテルによって定期的に技術革新がなされてきた。
デル自身は、多額の研究開発費を投じなくても、
顧客に「この商品は最先端」とアピールできた。

IT業界の主戦場が、パソコンからスマートフォン(高機能携帯電話)や
ネットに移ると、ウィンテルの技術力も一時期ほどの輝きは失った。
デルの武器だったはずの「安さ」も、低価格ノートである
ネットブックの普及とともに、際だった特徴とはいえない。

ユニクロはどうか?
「世界一の技術力をもつ東レさんなどと組んで、技術力を活かしつつ、
着心地のよさ、風合い、適度なファッション性を入れ込んで、
高機能で高品質、手ごろな価格のカジュアルウェアを作り続けていく」

柳井氏は、安さだけでは顧客をつなぎ留められないと先を読み、
商品開発に力点を置いてきた。
タンクトップやキャミソールに、ブラジャーのカップをつけた
「ブラトップ」や、発熱保温肌着の「ヒートテック」。

ここ数年のヒット商品は、地道な商品改良のたまもの。
「アパレルはローテク」のイメージを覆し、情報収集も兼ねた
R&Dセンターを東京やニューヨークなどに持つ。

デルもじっとしてはいない。
09年秋、39億ドルを投じて情報処理サービス会社の
ペロー・システムズを買収すると発表。
米AT&Tと組み、米国でスマートフォン事業に参入すると表明。

いずれもライバルの後追いの印象が強く、新鮮味はない。
個人客を取り込もうと直販専門の看板を降ろし、
家電量販店などでのパソコン販売に力を注ぐが、
顧客との接点が一段と減るリスクも否めない。

1990年代末、デル氏が書いた『デルの革命』は、
急成長企業の秘密を探ろうという多くのビジネスマンに読まれた。
現時点で、デル復活の具体的な道筋は見えにくいが、
仮に実現すれば、その物語は経営立て直しの格好の教科書に。
ベストセラーになるのは確実だが、果たしてそういう日が訪れるか。

http://netplus.nikkei.co.jp/ssbiz/ittrend/itt100120.html

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