(2010年8月14日 読売新聞)
インターネット通販で、手軽に受けられる遺伝子検査が増えている。
がんやアルツハイマー病のリスクが分かるとするものや、
子どもの「才能」が分かるとうたうものまで。
科学的根拠は、必ずしも明確でなかったり、
説明が十分でなかったりするものも多く、
日本人類遺伝学会や専門医らは、
「利用者に、大きな誤解と不安を与える恐れがある」、
「遺伝情報は、血縁者にも影響がある重大な個人情報。
専門家のカウンセリングなしの検査は危険」と警鐘。
◆ネットなど330業者
経済産業省の調査では、遺伝子検査を行う業者は330。
インターネット通販やクリニックなどで販売、
肥満のタイプや生活習慣病のリスクのほか、
がんやアルツハイマー病のリスク判定をうたったものなど。
健康食品などの販売につなげる例や、肥満や骨粗しょう症の
遺伝子検査を客に受けてもらい、結果に応じ、
エステメニューの提案に利用するエステサロンも。
子供の「才能」がわかるとするものも登場。
説明会を開いた会社は、遺伝子検査で知性、運動、芸術など
6分野の「才能」がわかるという商品を販売。
綿棒で、ほおの内側の粘膜をぬぐい取ったものを、
開発元の中国企業へ送り、遺伝情報を解析した結果を知らせる。
知性分野なら、記憶力、理解力など6能力について、
「優秀」、「良好」、「一般」、「不利」の4段階に評価。
料金は5万8000円。
6月からインターネットで販売を始め、約200件の申し込みが。
「世界中の論文を基にしていると聞いた。
科学的根拠はあると判断している」と同社社長。
北里大臨床遺伝医学講座の高田史男教授は、
「説明文書を読んでも、遺伝子の機能の説明と、
それが人間の潜在能力にどう影響するかという解釈に、
非論理的な飛躍がある」と疑問。
別の会社では、同じ商品を「才能占い」と名付けて販売。
遺伝子検査ビジネスには、「科学的根拠が十分でないものや
結果の解釈が確立されていないものも少なからずある」(高田教授)。
経産省は2004年、客観的データの明示や専門医らによる
カウンセリング体制の整備を求める指針を作成、強制力はない。
日本人類遺伝学会は、00年に注意を呼びかける勧告を発表。
08年、消費者が直接買える商品について、
公的機関の監督を求める見解を出しているが、規制はない。
◆「究極の個人情報」認識が希薄
「21世紀は遺伝子の時代」と言われ、医療現場では、
遺伝性がんの診断や抗がん剤の副作用予測など、
遺伝子検査が続々と実用化。
これらは、大規模な臨床研究に基づいている。
健康志向など、現代人の欲求に応える形で、
評価の定まっていない研究などを基に増えているのが
遺伝子検査ビジネスだ。
医学界が懸念を強めるのは、科学的根拠が乏しいからだけではない。
遺伝情報が生涯変わらず、本人だけでなく血縁者も含めた
「究極の個人情報」だとの認識が希薄。
専門家のカウンセリングが不可欠だが、
北里大などの調査では、クリニックが窓口になっている場合でさえ、
約半数が口頭による事前説明すら行っておらず、
結果を郵送や受付で返却するだけの施設も。
国は、「今は産業として育成する段階」(経済産業省)、
「医療行為に踏み込まなければ監視の範囲外」(厚生労働省)と
事実上、黙認。
福嶋義光・日本遺伝子診療学会理事長(信州大教授)は、
「十分な予備知識のないまま、検査結果を知らされることは、
利用者の人生に重大な影響を及ぼす可能性がある。
放置は危険」と、法的規制の必要性を強く訴える。
http://www.m3.com/news/GENERAL/2010/8/16/124042/
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