2010年9月8日水曜日

大学受験で数学をとった人々の将来

(サイエンスポータル 2010年8月27日)

理系出身者の方が、文系出身者より収入は恵まれている、
という意外な結果が、西村和雄・京都大学経済研究所特任教授、
浦坂純子・同志社大学社会学部准教授らの調査。

従来は、全く逆の通説が流布され、大学受験生やその親に
理工系学部への進学をためらわせる原因の一つ。
どうしてこのような根拠あやふやな通説がまかり通ってきたのか。

日本社会の最上部だけ眺めていると、
こうした通説が本当らしく思えてくる現実はある。
圧倒的に、文系が優位な政官界だけでなく、
大企業のトップも確かに文系が多い。

西村教授らの記者発表では、収入の比較だけでなく、
もう1点重要な知見として指摘。
「難易度Aの大学出身者ほど、高い人的資本が求められる
仕事に就いており、数学学習が効果的に機能していることが示された」

これはどういうことか?
記者発表の根拠になった西村教授らの論文
「数学教育と人的資本蓄積―日本における実証分析」
(Journal of Quality Education Vol.3)を見てみる。

調査は、ベネッセコーポレーションによる2008年度の
大学入試難易ランキングを用いて、得られたサンプルを
偏差値50未満(低ランク)、50-59(中ランク)、60以上(高ランク)に
分けた比較もしている。

文系理系の違い以前に、文系出身に限った中で、
数学で受験したかそうでないかを比較した結果が興味深い。

大学入試で、一度だけでも数学で受験したことがあるグループと、
大学入試で数学をとらなかったグループで、
社会人になってから年収に違いがあるかどうかを比べた結果。

偏差値が低ランクでは変わりないが、
中ランク、高ランクになるほど、数学受験グループの年収が
高くなるという結果。

西村教授らは、「入試難易度が高い出身大学ほど、
優良な企業などに就職する可能性が高く、
数学学習で培われた数理的能力が、より多くの選択肢の中から
より有利な仕事を手に入れる機会をもたらし、
着実な昇進、引いては所得に強く影響を与えるため」という解釈。

同じ文系出身の中ですら、このような違いが見られたのだから、
理系と文系出身の違いを加味したら、
もっとはっきりと差が出るのは当然。

数学で受験したかどうかによる年収への違いを、
偏差値ランクごとに文系、理系で比較するとどうなるか?
最も高収入を得ているのは、偏差値60以上(高ランク)の理系出身、
45~60歳ですべて年収1,000万円を超す。

次に高収入を得ているのは、高ランクの文系出身でかつ数学で
大学受験した人たち。
60歳になると、偏差値では下位(中ランク=偏差値50~59)の
理系出身者に抜かれる。
要するに、トップ3のグループはすべて大学受験時に
数学をとっている人々。

中ランク(偏差値50~59)の文系出身で、
数学の受験経験のない人々が、50歳までは同じ中ランクの文系、
数学で受験した人たちを上回っている。
55歳になると追いつかれ、60歳になると数学受験組より
年収が下回ってしまうことも興味深い。

単純に平均をとっても、数学を学んだかどうかまで見て比較しても、
理系出身が文系出身より所得が劣る、ということなど全くない。

今、高校の教育現場では、「国公立大学に何人合格したか」が、
大きな指標の一つになっている。
西村教授は、20年以上前から大学生の基礎学力低下に
警鐘を鳴らし続け、一つの原因に大学入試の科目減を挙げている。

入試科目を増やそうという動きは、大学側にまだないが、
高校の方が先に、気づき始めた。
比較的、入試科目の多い国公立大学に
生徒を送り込んだ方が本人のため、と。

今回の調査結果が、大学側の入試に対する考え方に
影響を与えるかどうかも注目。

http://scienceportal.jp/news/review/1008/1008271.html

0 件のコメント: