2010年9月9日木曜日

スポーツ政策を考える:森浩寿・大東文化大准教授(スポーツ法学)

(毎日 8月21日)

文部科学省のスポーツ立国戦略案は、
五つの重点戦略を掲げている。
厳しい財政状況の中で、優先順位をつけるとしたら、
一番は競技力の向上(世界で競い合うトップアスリートの育成・強化)。

オリンピックなどで日本選手が活躍すれば、
スポーツに多くの人の関心を向けさせることができる。
メダルの数を増やすだけが目的ならば、
柔道など日本が得意とする競技を重点的に強化すればいい。

だが、それでは地域スポーツを含めたすそ野は広がらない。
ナショナルトレセンを拠点にしたエリート教育も大事だとは思うが、
すそ野を広げるには長い時間がかかる。

トップスポーツと地域スポーツをリンクさせて、
「好循環」を作り出していくことが求められる。

強化のためには、ジュニアを含めた次世代のことも
考えていかないといけない。
少子化や指導者不足などで部活動が厳しい中、
次世代の育成は競技団体の責任。

競技団体が力をつけていくこと、ガバナンス(統治)能力を
高めることが、本当の意味での強化につながる。

公益法人制度改革に注目。
あるシンポジウムで、公益法人認定の条件として、
競技団体が選手選考などに関する紛争解決の仕組みを
設けることを義務付けたらどうかと提案。

スポーツに関する紛争を、迅速に解決するため、
日本スポーツ仲裁機構(JSAA)が設立、
自動受諾条項を採択している競技団体は約4割。

外部機関に委ねることに抵抗があるのなら、
自分たちで処理する仕組みを作らないと、世界では通用しない。

フランスでは、競技団体は法律によって組織のあり方が定義され、
認可されると公的な補助金を受けることができる。

ガバナンスの強化は、本来は私的自治である競技団体に対する
国の管理と関与を強めることになる、と危ぶむ人もいる。
だが、支援を受ける以上は当然、義務が生じる。
公的な存在である以上、社会のルールは守らなければならない。

一部には閉鎖的な組織もあり、スポーツをする権利を
侵害するようなことも見聞きする。
ある競技では、指導者の意向で選手の進学先が決まる。
地元の学校ではなく、指導者とつながりのある
他地区の学校に入学せざるを得ない。
その事実を、競技団体も把握していながら是正できないでいる。

公益法人改革は、書類作成をはじめ厳格な事務手続きを
求めていて、対応できない競技団体もある。

公正、公平さを実現するだけでなく、
お金の流れも透明になっていく。
ガバナンスの強化は、競技団体のあり方を変える好機でもある。
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◇もり・ひろひさ

1966年生まれ。日大卒。「スポーツ六法」(共編)。
日本スポーツ法学会理事、日本体育・スポーツ政策学会理事。
豪州スポーツ政策も詳しい。

http://mainichi.jp/enta/sports/general/archive/news/2010/08/21/20100821dde035070019000c.html

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