2010年9月9日木曜日

フロンティア:世界を変える研究者/9 東京大医科学研究所・中村祐輔さん

(毎日 8月24日)

約30億の塩基対からなるヒトの遺伝情報。
A、T、G、Cの4文字で書かれた「生命の設計図」が、ゲノム(全遺伝情報)。
その配列には、個人差がある。

微妙な違いを見つけることで個人を特定したり、
さまざまな病気のリスクが分かる時代になってきた。

「ゲノムを理解することで、個人差に合わせた
オーダーメード医療が進む」と力説。

中村さんは、これまで1000本以上の論文執筆にかかわり、
論文が6万5000回以上引用されるなど、
急展開を見せるゲノム研究をリードする一人。

「医学は、役に立たなければ意味がない。
それを支える研究は地味だが、必ず社会のため、患者のためになる」

もともとは消化器外科の臨床医。
悪性の胃がんにかかった結婚間近の女性や、大腸がんに侵され、
子供たちを残して亡くなった父親を前に、医師として限界を感じた。

「なぜがんができるのか。
抗がん剤の副作用が人より強く出る人がいるのはなぜなのか……」
この時抱いたさまざまな疑問が、臨床から研究に転じる原動力。

84年、米国留学。
遺伝性疾患「家族性大腸腺腫症」の解明に取り組んだ。
当時は、原因遺伝子を見つけるのに欠かせない
目印(マーカー)もほとんどない状態。

中村さんは、マーカーを効率よく見つけ出す仕組みを自ら生み出す。
88年、これで見つけた多くのマーカーの場所を、
染色体上に示した「地図」が完成。
病気の解明や診断に応用できるため、他の遺伝病やがんの研究、
犯罪捜査などに広く使われるようになった。

30億対の全塩基配列を読む「国際ヒトゲノム計画」にも参加。
03年完了後、病気のかかりやすさや薬の効きやすさに
かかわる遺伝子を見つけるための基盤となる、
ゲノムの個人差をデータベース化する国際計画に、
理化学研究所のリーダーとして参加。
がん治療からがん研究、そしてたどりついたゲノム研究。

「臨床医時代に抱いた疑問が、科学的に理解でき、
診断や治療に応用できる。
ゲノムは強力な研究道具」

5~10年後、個人のゲノムが約10万円で調べられると予測。
米国は国立衛生研究所所長に、ヒトゲノム計画を率いた
フランシス・コリンズ博士を任命するなど、
ゲノム重視の姿勢が鮮明だ。

日本は、ゲノム研究の評価が低かった。
今こそ国家戦略の基本に位置付けるべきだ」と
語る視線の先には、「患者本位の医療」の未来がある。
==============
◇なかむら・ゆうすけ

52年、大阪府生まれ。77年、大阪大医学部卒。
癌研究会癌研究所生化学部長などを経て、95年から現職。
理化学研究所ゲノム医科学研究センター特別顧問、
国立がん研究センター研究所長を併任。

http://mainichi.jp/select/science/archive/news/2010/08/24/20100824ddm016040129000c.html

0 件のコメント: